日本の昆布だしは、世界最先端の味付け技!【だし文化・前編】

昆布土居

Webメディア「カンパネラ」からお届けする、おいしいトレンド情報。今回ピックアップするのは、和食に欠かせない「昆布」。江戸時代、大阪の食文化の土台となったのが、北海道の昆布です。昔ながらの商いを守る昆布店が世界の一流シェフから大変な注目を浴びている今、出汁(だし)文化の奥深さと、大阪空掘の老舗・こんぶ土居の底力を深掘りします!

 

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江戸時代、天下の台所とうたわれたグルメ都市・大阪(江戸時代は「大坂」と表記)。近年は、たこ焼きやお好み焼きといった「こなもん」がマスメディアに取り上げられることが多いのだが、本来、大阪の食の土台は、昆布を中心とした出汁(だし)の文化。

 

それには歴史的な理由がある。江戸の中期から明治にかけて、昆布は、大生産地・北海道の小樽や江差などの港から、北前船(きたまえぶね)により大阪に集められた。北前船は、日本海から瀬戸内海に至る通称・昆布ロードを航海する。

 

運の良いことに、大阪の堺では、昆布を薄く削る鋭利な刃物が生産されていた。大阪で昆布を中心とした食文化が花開いたのは、そのような好条件による。

 

そんな歴史のある昆布が、最近、日本の伝統食の範ちゅうを超えて、「新しい食材」として、世界に受け入れられ始めていると聞いて驚いた。

 

真昆布
真昆布のアップ

 

「このところ、昆布が海外の一流料理人に向けて、大阪から活発に輸出されるようになっているんです」

 

そう語るのは、大阪のインバウンド(外国人観光客の誘致)にも詳しいツーリズム・ディレクターの森なおみさん。

 

2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたのは記憶に新しいが、それと歩みを合わせるように、西洋では認識されてこなかった「うまみ」が、世界でも注目を集めつつある。海外では料理のプロの間でも「umami」という言葉が知れ渡り、今や甘味、酸味、塩味、苦味に並ぶ基本の味覚のひとつになりつつある。辞書にも掲載されるまでになっているという。

 

「中央区の空堀商店街に、こんぶ土居さんという昆布屋さんがあるんです。フランスのミシュラン三つ星レストランのシェフも勉強に来るほどのお店なんですが、行ってみませんか?」

 

そこまでスゴイことになっているとは。森さんに誘われ、空堀に向かった。

 

***

 

全て国産、原材料表示が極上のエンタメ

 

こんぶ土居は、大阪市営地下鉄・谷町六丁目駅から徒歩2分ほどにある空堀商店街の中にある。「谷町」という地名は、相撲や芸能、アートなどの個人後援者(パトロン)を意味するタニマチの語源で、江戸時代、谷町四丁目の相撲好きの外科医がいたことから来ている。古くから町人文化が栄えた土地であることがわかる。

 

昆布土居

こんぶ土居の外観

 

また「空堀」という地名は、豊臣秀吉が作った水のない堀が由来で、これも安土桃山時代の名残と古い。界わいは、第二次世界大戦の空襲の被害を免れたため、風情のある戦前からの町屋が多く残る。

 

実は、こんぶ土居を訪れるのは初めてではなかった。

 

昔、空堀商店街から歩いて5分ほどの大阪府立清水谷高校に通っていたこともあり、多くの級友が、いまでもこの辺りに住んでいる。2年ほど前、なんとなく懐かしく界隈を訪れた時にこんぶ土居さんを再発見。以来、年に3、4度くらい足を運ぶようになっていた。

 

昆布土居

 

ここを訪れると、必ず購入する品がある。それは「梅すこんぶ」「えのき昆布」「天然真昆布」の3点。スーパーやコンビニの梅酢昆布が以前から好きだったが、ここの「梅すこんぶ」を初めて食べた時の衝撃は、いまも忘れられない。

 

肉厚な昆布の食感、噛(か)むほどに口中に旨味と喜びが広がる。そして素朴な梅肉の香味と酸味、ほのかな酢の刺激。一片、一片に心が癒やされ、袋が空になると思わず再会を誓っている。

 

梅こんぶ

梅すこんぶ

 

同じことは、「えのき昆布」にも言える。こちらは、ごはんのお供、酒のアテ。エノキと昆布の個性が溶け合う旨味成分が鼻腔(びくう)に充満するたびに、日頃の憂さがひとつ消える。そのままでもいいけれど、いろんなチーズとあわせるとヤバイ。この上ない酒の友である。

 

えのき昆布

えのき昆布

 

いつも感動するのは、味わいと、そして、もうひとつ。なにげなくパッケージを裏返した時の原材料名表示。それはもう、文字面を眺めながら白ご飯をお代わりできるレベルだったりする。

 

梅すこんぶ

 

例えば、梅すこんぶは、以下の通り。

 

『原材料名:昆布(天然真昆布)、酢(米・米麹・甘酒)、梅肉・みりん(もち米・米麹・米しょうちゅう)・砂糖・だし(天然真昆布・かつお節・塩)』

 

原材料は全て国産。自然なもの以外は一切なく、左下にこんな文章が。

 

『【おいしさいろいろ】調味料(アミノ酸)や酵母エキスなどで人工的に強く味付けした食品を常食されている方には、当店の製品は物足りなく感じられることがあります。自然の素材と技術が醸し出す滋味をお楽しみください。』

 

ちなみに、えのき昆布は、このような原材料名表示。

 

『原材料名:えのき61%、醤油(大豆・小麦・塩)16%、水飴(甘藷澱粉・麦芽)10%、昆布(天然真昆布)3.7%、味醂(糯米・米麹・米焼酎)3.4%、酒(米・米麹)3.4%、濃縮だし(水・鰹節・昆布)2.5%』

 

こちらもお見事。全て国産。原材料表示が極上のエンタメで、それぞれの味覚の楽しみもさることながら、シンプルな原材料表示に魅せられる。

 

天然真昆布

昆布土居のアイデンティティとも言うべき「天然真昆布」

 

そして、最後の「天然真昆布」なのだが、これが、こんぶ土居のアイデンティティとも言うべき製品なのだ。

 

真昆布とは、函館を中心とする道南地域で産出する、昆布の中の昆布。川汲浜は、中でも最も良質な産地で、こんぶ土居の昆布は9割以上が、ここから来る。

 

天然真昆布

天然真昆布で作った出汁

 

パッケージの裏側に書かれている通りに、この昆布で出汁をとるのは、以下の手順だ。

 

(1)1リットルの水に10gの真昆布を2時間以上つけるだけ(長い方が良い)
(2)火にかけて、沸騰寸前で昆布をさっと引きあげるだけ

 

この通りにするとスゴイことになる。できた出汁は、とろりと薄い昆布色。ひとくち口に含むと、刺激のない優しい味覚ながら、濃厚な滋味に心うたれる。まさに「自然の素材と技術が醸し出す地味」が体中の細胞を静かに波打たせるのが、わかる。

 

これは、もはや命の出汁。

 

しかし、こんぶ土居の素朴な商品づくりは、北前船が運行していた江戸時代と何ら変わりないものなのである。

 

 

***

 

世界でいちばん簡単な日本の出汁

 

自分のこんぶ土居体験を思いだしながら店先にいると、四代目の土居純一さんが出迎えてくださった。スラリと長身のギリシア彫刻にも似た美男子である。

 

昆布土居

こんぶ土居の四代目、土井さん(右)とツアーディレクターの森さん

 

いきなり天然真昆布の話題になった。

 

「昆布の出汁は、世界でいちばん簡単なんです」と、四代目。

 

昆布土居

 

確かに、前述したやり方で、絶品の昆布出汁が取れる。実質かかる手間と時間は、たったの2~3分。水につけるだけ、または火にかけて引き上げるだけ。これ以上ないほどの簡単さ。しかも、1リットルをつくるのに必要な額は、120円程度。

 

西洋料理の出汁に当たるものは、あえて言えばフレンチのフォンだろう。肉や骨、野菜を水に入れて長時間かけて煮出すのだが、丁寧にアクを取り、沸騰後には軽めの火加減を維持することが大切だ。

 

筆者は以前、ハンガリーの首都ブダペストに2ヶ月ほど滞在していたことがある。市内の三つ星レストランはじめ、複数の店の厨房に入らせていただく機会に恵まれたが、スープの出汁用に大きな寸胴鍋で大量の骨と香味野菜を煮ていた。ぐつぐつ弱火で何時間も煮て、丁寧にアクを取る。それを見て、フォンをつくるには結構な手間暇がかかると知った。

 

そこから考えると、昆布出汁は実に手軽である。

 

「和食の出汁ということで(多くの人は)難しく考えすぎて、ハードルを高くしてるのかもしれませんね」と、森さん。

 

こんぶ土居の店内とバックヤードを見せていただくことになった。そこには、当たり前を積み重ねることで熟成される、とても豊かな世界があった。

 

≪後編に続く。後編では、さらにディープなこんぶ土居さんの世界の話に入り込みます≫

 

※参考Webサイト

こんぶ土居

 

(2016.04.21「カンパネラ」より転載)

 

須田泰成

須田泰成さん

[PROFILE]

コメディライター/地域プロデューサー/著述家。1968年、大阪生まれ。全国の地域と文化をつなげる世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」代表。テレビ/ラジオ/WEBコンテンツや地域プロジェクトのプロデュース多数。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。

 

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