世界のシェフがお取り寄せ!昆布を支えた老舗の力【だし文化・後編】

昆布土居

Webメディア「カンパネラ」からお届けする、おいしいトレンド情報。今回ピックアップするのは、和食に欠かせない「昆布」。江戸時代、大阪の食文化の土台となったのが、北海道の昆布です。世界の一流シェフから注目を浴びる大阪の老舗昆布店はなぜ、良質の昆布を守ることができたのでしょうか。出汁(だし)文化の奥深さを追う、後編。昆布を支えた、江戸時代以来の「目利き文化」を探ります。

 

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前回、世界の一流シェフがお取り寄せをする大阪の昆布専門店・こんぶ土居の取り組みについて紹介した。

 

「世界の一流シェフがお取り寄せをする」ということが示すように、今、日本の出汁(だし)は世界的に注目を浴びている。

 

先立つ2013年、ユネスコ無形文化遺産に和食が登録された。それと歩みを合わせるかのように、世界の料理人たちが、それまで西洋では認識されてこなかった味覚の要素「umami(うまみ)」を自分たちの料理に取り入れようとしているからだ。

 

うまみというのは、つまりは、出汁。ワールドワイドな料理人の世界で、日本食のエッセンスがじわりと拡散中なのだ。

 

真昆布
真昆布のアップ

 

「海外で高く評価されている現在の状況は、国内でも昆布を中心とした出汁の文化を再発見するいい機会のように思います」

 

そう語るのは、前回に引き続き、こんぶ土居に案内してくれているツーリズム・ディレクターの森なおみさん。大阪を拠点に活動しており、インバウンド(外国人観光客の誘致)への取り組みを通じて、日本と海外の関係性についても詳しい。

 

昆布土居

こんぶ土居の店舗外観

 

 

「実は、こんぶ土居さんのすごいところは、北前船が大阪に昆布を運んでいた江戸時代以来の伝統を守り続けていることなんです。世界は本物に反応しているんです」

 

さらに深く「こんぶ土居ワールド」に潜入することとなった。

 

 

***

 

世界の舌をうならせる天然昆布の滋味

 

前回と同じく、筆者らを出迎えてくださったのは、こんぶ土居・四代目の土居純一さん。江戸時代の伝統と本物の味の継承について質問すると、以下のように言葉が返ってきた。

 

「戦前は、日本中どこに行っても昔ながらの本物が当たり前にありました。しかし戦後のモノのない時代に、需要に応えるため、あらゆる味覚が化学的に合成され、食品が工場で大量生産されるようになりました。国民の食生活が大変な時期だったので、しょうがなかったと思います。けれども、日本が復興して以降も、化学的な味覚がスタンダードとして残ってしまいました」

 

こんぶ土居の戦後史は、約70年間、良い意味で時代の流れに逆らってきた歴史でもある。

 

前回もご覧いただいたが、もう一度、こんぶ土居さんの商品の原材料表示を見てほしい。

 

例えば、えのき昆布。

 

えのき昆布

 

裏面は、このようである。

 

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原材料名:えのき61%、醤油(大豆・小麦・塩)16%、水飴(甘藷澱粉・麦芽)10%、昆布(天然真昆布)3.7%、味醂(糯米・米麹・米焼酎)3.4%、酒(米・米麹)3.4%、濃縮だし(水・鰹節・昆布)2.5%

 

まるでレシピのような言葉の羅列。原材料は全て国産。自然なもの以外は一切ない。同じような製品をスーパーや百貨店で買い求めると、必ず原材料名表示に化学的に合成された物質の表記がある。

 

「三代目に当たる親父の時代は、まさに大量生産、合成化学調味料が日本を覆い尽くした時代です。昔ながらの昆布屋には厳しくて、同業者はどんどん潰れていきました。しかし、うちは、そんな中でも親父が本物にこだわったおかげで、価値のある店として残れたと思います」

 

こんぶ土居が扱っている商品を手に取り、原材料表記欄を見てみると、左下にはこんな文章が載せられていた。

 

【おいしさいろいろ】
調味料(アミノ酸)や酵母エキスなどで人工的に強く味付けした食品を常食されている方には、当店の製品は物足りなく感じられることがあります。自然の素材と技術が醸し出す滋味をお楽しみください。

 

世界の一流シェフたちの舌が反応したのは、ここで示されている「滋味」ではないだろうか。

 

 

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産地を助けた「目利き」の役割

 

こんぶ土居のアイデンティティーは、函館を中心とする道南地域で産出する最高品質の昆布、天然の真昆布である。なかでも最も良質な産地である川汲浜から9割以上が届く。

 

真昆布

真昆布の包み

 

しかし、こんぶ土居が仕入れている昆布の高い品質は、ただ良質の産地から原材料を取り寄せるということから生まれているものではない。30数年も前から産地に直接足を運び、交流を続け、生産地と消費地がタッグを組み、よりよい昆布の商品を製造する努力を続けてきたからでもある。

 

「親父が、初めて産地に足を運んだのは、1980年代の前半ですから、30年以上も前になりますね。昆布の世界にはそういう前例がなかったので、最初は、産地の人たちの反応は冷ややかだったようです」

 

三代目が産地に足を運んだ理由は、昆布の品質を思う純粋な気持ちからであって、直接安く仕入れたいといった利己的なものではなかった。実はその頃、店に届く昆布の質にバラツキが目立つようになっていたのだという。

 

昆布の品質を高度に吟味することに関しては、産地の人間よりも、加工を行い舌の肥えた客を相手に商売する大阪の昆布屋が圧倒的に詳しい。いわゆる「目利き」に当たるわけだ。

 

繰り返し通ううちに、生産者は三代目を信頼するようになった。そうして産地とこんぶ土居とで力を合わせて、質の良い昆布を製造するノウハウを高めていった。現在は、三代目の後を継いだ四代目の純一さんが生産地との交流を続け、届いた昆布の目利きを行う。

 

こんぶ土居

 

こんぶ土居の2階事務所には、現地の漁協から贈られた旗が飾ってあった。北海道の地図の上に「こんぶ土居」の名前が大書してある。左隣に地元からの感謝状。それらは、生産地と消費地の信頼関係を、これ以上ないほどに物語っていた。

 

 

***

 

より簡単に使える商品も開発

 

 

現在、国内の昆布の生産量は、30年前に比べて、ほぼ半減している。世界からの関心の高まりは、日本の状況に逆行するように起きている。

 

「日本の伝統文化の良さって、なぜか、海外が先に発見することが多いですよね」と、ツーリズム・ディレクターの森さん。

 

実は、四代目の純一さんが昆布の文化のすばらしさを再認識したのは、海外だった。

 

「イタリアの料理の現場で働いた経験があるんです。ルネサンス当時の建築がそのまま残るシエナという街にいました。イタリア人は本当にイタリアの独自文化が大好きですよね。食に関しても外国のものが入る余地がないほどで。日本人も見習わなければと思いました」

 

昆布を中心とした食文化の伝統を新しい世代にも広めたい。こんぶ土居は、家庭でも飲食店でも使える製品の研究と開発に余念がない。

 

こんぶ土居

こちらがこんぶ土居が開発した商品「十倍出し」

 

「混合削り節十倍だし、めっちゃ楽で、おいしいですよ。お得やし(笑)」と、森さん。

 

原材料表示は、かくのごとし。

 

原材料名:真昆布(北海道函館市)22g、鰹節(熊本県牛深市)14g、うるめ節鰹節(熊本県牛深市)14g、宗田鰹節(高知県土佐市)10g、食塩(愛媛県西予市)

 

本物が詰まった濃厚な「十倍出し」。小さじで計って、投入するだけで、食卓の幸せがグンと増す。

 

こんぶ土居さんの店頭を眺めていると、本物が難しいというのは、もはや単なる思い込みだという気がしてきた。

 

世の中には意外と知られいない、簡単で便利な「本物の味」がある。その本物の味がもっと知られるようになれば、生産量が増え、手頃な値段で商売が成立するようになる。次第に、子どもたちを含めたより多くの人が本物の味に触れられるようになるだろう。それは日本の文化や経済という大きな領域に渡って大きな価値を生むはずだ。

 

大阪・谷町、空堀商店街へぜひ。

 

 

※参考Webサイト

こんぶ土居

 

(2016.05.12「カンパネラ」より転載)

 

須田泰成

須田泰成さん

[PROFILE]

コメディライター/地域プロデューサー/著述家。1968年、大阪生まれ。全国の地域と文化をつなげる世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」代表。テレビ/ラジオ/WEBコンテンツや地域プロジェクトのプロデュース多数。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。

 

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