NHK『世界入りにくい居酒屋』が放つ不思議な魅力【前編】

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Webメディア「カンパネラ」からお届けする、おいしいトレンド情報。今回は、ヨーロッパやアジアの裏町にあるディープな「酒場」のリアルな様子をご紹介します。女性にも大人気で話題を呼んでいる、NHK-BSの紀行番組「世界入りにくい居酒屋」プロデューサーへのインタビューを通じて、番組の魅力に迫ります!

 

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最近、酒の愛好家の間で、NHK-BSのある番組がとても話題になっている。木曜日の午後11時15分、帰宅して一息ついて、寝る前に一杯始めようという絶妙のタイミングで、その番組は始まる。

 

番組の名前は『世界入りにくい居酒屋』。2014年7月にオンエアが始まった番組である。

 

毎回、画面に映るのは、パリ、バルセロナ、リバプール、ホーチミン、台北といった、ヨーロッパやアジアの大都市の風景。リポーターはなく、ただカメラが、観光客がゆるゆる歩くくらいのスピードで街にわけいっていく。紀行番組のようであるが、きっちりした説明口調のナレーションがあるわけではない。

 

映像のバックに流れるのは、二人の女性タレントの掛け合い。映像を見ながら酒を飲み、女子会をしているという雰囲気である。

 

ほどなくすると、この番組が普通の番組ではないことが明らかになってくる。カメラが向かうのは、大都市の裏町も裏町。およそ観光客は近寄れないような街の、その中でも特にディープな常連が集う店にカメラが潜入する。

 

NHKオンラインの番組ホームページには、以下のような言葉が記されている。

 

「地元の人しか知らないディープな名店を紹介する番組です」

 

「世界のどこでも、いい居酒屋は必ず、入りにくいオーラを出しまくっている。観光客向けのオープンな店とは大違い」

 

世界各地にある酒場の店主や客たちのドキュメンタリーを観ながら、家呑みをする。これが妙に楽しくてやめられない。そんな人が、日本国内で増えているに違いない。

 

世界入りにくい居酒屋

番組のタイトル画像(写真提供:NHK)

 

なぜ支持を受けているのか。不思議な魅力の本質に、プロデューサーのインタビューを通じて迫る。

 

 

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徹底した一般人目線でディープな居酒屋に潜入する

 

 

「気楽に観ることができて、家で独りでも、番組と一緒に飲める。そんな風に楽しんでもらえたらと思って作っています」

 

 

そう語るのは、プロデューサーの河瀬大作さん。NHKのドキュメンタリー畑を長く歩き、『プロフェッショナル 仕事の流儀』『クローズアップ現代』など、国民的人気を誇る番組でキャリアを積んできた。

 

河瀬大作

プロデューサーの河瀬大作さん

 

そんな河瀬さんをして、世界のディープな居酒屋は、これまでに取材した人や場所とは異なる取材対象だったという。

 

「この番組は、企画段階では、『世界バル紀行』という、いかにもNHKらしい名前だったんです(笑)。でも、世界の『入りにくい居酒屋』ってタイトルが生まれた時点で、企画の方向性が決まったんだと思うんですよね。独特の“ゆるさ”を持った、従来のドキュメンタリーとは全く違う文法でつくるものになったというか。当たり前のアプローチでは、人と場所の魅力を表現できないというか(笑)」

 

番組に登場するのは、極めて人間臭い人たちばかりだ。仕事中なのに昼から飲んでしまう人、客以上に酒を飲み楽しくなって歌いだす店主、酔って抱き合う人、踊る人、酔ったまま工房に戻り結局大して仕事にならない職人など。

 

「普通の人が飲み屋で話している、そんな雰囲気を大事にしたいと思っています。だから説明も減らしたりしています。例えば、ニューヨークのエンパイアステートビルに、あえて“有名なビル”ってテロップしてみたり。かなり雑ですよね(笑)。でも、そのテロップを見て、あれエンパイアステートビルだよね?って会話が見ている人たちの間に生まれるといいかなと」

 

上から説明を押し付けない。そんな徹底した一般人の目線だからこそ、カメラが捕まえる映像は、面白い。

 

「この番組の特徴は、お客さん(視聴者)が熱いことなんです。12月の時点で、Facebookページの参加者が1万なんです。それなのに、番組関連の投稿を一度すると、多いときには「いいね!」が2000もついちゃう(笑)。相当に能動性の高い人が見ているようです」

 

それほどまでにファン(視聴者)の心を熱くさせる、『世界入りにくい居酒屋』の魅力とは?

 

 

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年金生活の老人を救うメキシコの人情酒場など

 

 

夜毎、常連客たちが集う入りにくい居酒屋は、繰り返し見るうちに、どこもたまらない魅力と優しさをたたえたユートピアのように思えてくる。

 

例えば、メキシコのグアダラハラの裏町にある入りにくい居酒屋には、年金生活者の老人が昼間からカウンターにいる。新しく客がビールを頼むと、その老人は、店のスタッフにも負けない敏捷(びんしょう)さでカウンターの内側に回り、瓶ビールを取って、客に渡す手伝いをする。

 

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メキシコのグアダラハラの裏町にある居酒屋の様子

 

実は、店のスタッフというわけではない。そうすることで、お金を払わずにビールを飲ませてもらっているのだが、店主は、「彼には、若い頃お世話になったからね。楽しいからいいじゃない」などと、何も特別なことではないという風に語る。

 

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「ぼくらも、老後にこういう店があったらなあと、よく編集しながら言っているんですよ(笑)。グローバリズムの世の中で、地域の受け皿のひとつとして居酒屋が機能しているというのが、スゴイ話だなと」

 

居酒屋が社会のセーフティネットになっているドキュメンタリー映像は、一見するとのん気だが、じわりと胸に深く来るものがある。

 

「日本の地方に行くと、ショッピングモールがあって、東京資本のチェーン店が入っていて、同じような風景が多くなっている気がします。世界的に見ても同じ傾向はあると思いますが、でもヨーロッパやアジアは、日本よりも多様で個性的なものが残ってるような気がします。特にヨーロッパは、街の文化がまだ残っていて、パリの中でも11区は11区で、他の地区とは違うという誇りと文化、アイデンティティが根強くある。日本のようにあちこちにコンビニがあったりしませんし」

 

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パリ11区の居酒屋の風景

 

マルセイユの港のそばの入りにくい居酒屋は、130年ほど続く地域の寄り合いの場である。朝、海に出て仕事をして戻ってきた若い漁師からリタイアしたおじいさんなど、いろんな人たちが、毎日でも通える安い値段のごはんを食べてワインを飲んで、トランプをして、一緒になって騒いでいる。

 

「マルセイユの居酒屋に通っている常連の漁師は、その店が長く続くように、格安で魚を卸していました。他にもいろんな人が寄ってたかって店を守ってるんですが、ある種、社会の抜け道というか、そんなに汲々(きゅうきゅう)しない場所が、この日本にも、もっとあってもいいかなーと思います」

 

マルセイユの港の入りにくい居酒屋

マルセイユの港の入りにくい居酒屋

マルセイユの港の入りにくい居酒屋

 

そんな河瀬プロデューサーの酒場体験は、少年時代に遡る。

 

「おじさんがお寿司屋さんだったせいで、小学校5年くらいから、日曜日なんかに遊びにいって、お手伝いしてたんです。そうすると、カウンターで飲んでるおじさんに捕まって話を聞かされて。まあ、酔っぱらいだから、8割はどうしようもない話(笑)。でも、子ども心にも2割は面白かったりするんですよ(笑)」

 

『世界入りにくい居酒屋』は、日本の大部分の地域で失われてしまったかに思える人情味や人間臭さが映し出されている。その意味で、観る者を引きつけてやまないコンテンツだ。後編では、番組づくりの裏話をまじえて、一度観ると癖になる魅力の秘密を探ってみたい。

 

 

≪後編に続く≫

 

(2015.12.17「カンパネラ」より転載)

 

須田泰成

須田泰成さん

[PROFILE]

コメディライター/地域プロデューサー/著述家。1968年、大阪生まれ。全国の地域と文化をつなげる世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」代表。テレビ/ラジオ/WEBコンテンツや地域プロジェクトのプロデュース多数。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。

 

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