「喫茶店で飲む」という至福の愉しみ

喫茶店

Webメディア「カンパネラ」からおいしいトレンド情報をお届けします。ここ数年で若い世代からも注目を集める「喫茶店」。カツサンドとビール、ミックスサンドとジンフィズ…。大人女子の間では喫茶店でお酒を嗜むのがじわじわブームになりつつあるとか(!?)。今回は、大阪の名店と至福の喫茶店飲みをご紹介します!

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花見の季節を過ぎると、本格的にビールが美味い季節の到来である。
 
日中に汗ばむことが多くなり、ふとした瞬感に、無性に、シュワッと冷えたビールを飲みたくなる。といって、うるさい飲み屋で酔いたいのではない。むしろ心を穏やかに、ビールが喉から体内に流れ込む快感に癒やされながら、静かに自分を取り戻したい。
 
そんなときこそ喫茶店である。
 
いい喫茶店は、音楽、装飾、佇まいが落ち着いている。芳(かぐわ)しいコーヒーのアロマが、世知辛い日常の憂さを忘れさせてくれる。そんな喫茶店であえて、一杯目のビール。
 
4月13日は「喫茶店の日」。1888年のこの日、東京・上野に日本初の喫茶店「可否茶館(かひいさかん)」が開業した。
 
大阪の名店を紹介しながら、至福の「喫茶店飲み」について考えてみたい。
 
 

商店街の熱気と寄席小屋の笑い声が届きそうな場所に

 
オススメスポットは、大阪市北区天神橋2丁目にある「ワーズカフェ」。JR東西線・大阪天満宮駅、大阪地下鉄・南森町駅から徒歩約3分の場所にある。
 
例年、約50万人もの初詣客が集まる大阪天満宮から北へ約1分と説明するとわかりやすいかもしれない。天満宮の境内には、上方落語の常打ち小屋である天満天神繁昌亭。日本一長いと言われることのある天神橋筋商店街から1本東の通りでもある。商店街の熱気と寄席小屋の笑い声が、どことなく漂っている。

 

 

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そんな界隈に、ワーズカフェは、ヨーロッパの路地裏のカフェのように、その姿を佇ませている。

 

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店内に入ると、食への誘いと文化の香りが充満している。白い壁に本場のサラミのような赤い文字で書かれた「BUON APPETITO」は、イタリア語で「どうぞ召し上がれ」という意味。ところ狭しと書かれているのが、上方落語家を中心とした表現者たちの直筆サイン。ビッグネームの名前も、さらりと。店の片隅でコーヒーを飲む有名な落語家さんの姿を見つけたが、ここでは日常の風景だ。

 

店主の畑中武彦さんは、元は印刷業を営んでいたが、業績が思わしくなかったため、ホテルで勤めていた経験を活かして、2005年5月にワーズカフェを開店。本を読んだり、会話を楽しむ場所を作りたかったので、この店名にしたという。畑中さんの開店当初の思いは、現実となっている。

 

ある壁際には、落語を中心にアート、小説、漫画、旅など幅広いジャンルの書籍が並ぶ。落語愛好家の間では有名な上方落語の情報誌「よせぴっ」や、落語をはじめとした公演のチラシもビッシリ。この店で開催されるライブのポスターもあった。ワーズカフェは、リアルな文化と人が交錯するサロンなのだ。

 

ワーズカフェ

ワーズカフェ

ワーズカフェ

 

 

お店づくりについて心がけていることを、畑中さんに教えてもらった。

 

「噺家(はなしか)さんやアーティストの方々もたくさん来られますが、普通に女性一人でも入れる雰囲気づくりを心がけています」

 

こういう立地にあると、往々にして業界人のオーラが濃く立ち込めがちで、女性一人で文庫本を読みながら時間を過ごしやすい空間にはなりにくい。だが、畑中さんの人柄とバランス感覚が、多様な人と文化を一つの空間にまろやかに共存させている。
 
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経済と競争ばかりが幅を利かせる俗世間とはやわらかく距離を置く、オアシスのような場所。ここで、カツサンドをつまみながら飲む生ビールが格別なのだ。
 
 

至福のビールとカツサンドで自分を取り戻す

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これが、カツサンドと生ビール。

 

まず一口。0.5秒後に心を浮き立たせるのは、生ビールのクリーミーな泡。老舗ビアホールの職人が描いた泡の舌触りを思いださせる、丁寧な仕事に感服。続いてゴクリと飲み干す黄金色の液体の香り高くキレ味のよいこと。

 

生ビールは、どうしてこんなにも注ぎ手によって変わるのか。ちなみに生ビールは一杯500円。セットにすれば400円というリーズナブルプライス。

 

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ランチタイムのカツサンドには、オニオンスープ、コーンとキャベツの野菜サラダ、ジャガイモをザク切りしたフライドポテトが付いてくる。軽食というよりは、完全食に近いセットメニュー。これが750円という大阪的ホスピタリティ。

 

熱々のオニオンスープは、飲むと心と身体に沁(し)みわたり、思わず「飲む温泉」という言葉を思いつく。ポテトフライは、厚い皮がカラッと、中はホクホク。塩も旨味があって、ビールとの相性は抜群以上。単品メニューがあれば、必ず注文したいレベル。

 

カツサンド

 

そして、主役のカツサンド様に手を伸ばす時が来た。

 

まず圧倒されるのが、惚れ惚れする厚みのヒレ肉のカツ。断面を一目見ただけで、やわらかいとわかってしまう。

 

焼きたての香ばしいトーストにカツとともに挟まれているのは、細かく刻まれたオニオンとトマト、レタス、そして、粒マスタードに挽きたての黒胡椒。カツには、しっとりと食欲をそそるブラウン色の特製ソース。

 

食べやすいように切れ目が入っているのが有り難い。はやる気持ちを抑えながら、パクリ。噛み締める。カツの肉からジュワッとほとばしる旨味に、それぞれの具材の味わいが合流。

 

それらをソースが一つにまとめ、スパイスが華やかさを添えて、美味の花火が打ち上がる。食べる前は、肉!と思っていたが、食べてみると、もちろん肉は主役なのだが、総合的な芸術性に感動する。

 

ビールと交互にやり始めると、グビリパクリと、やめられない止まらない。合間にコーンとキャベツの野菜サラダで口を整え、ポテトフライの応援で勢いをつけながら、やがて、味覚の至福はカタストロフへ。

 

「カツサンドは、パンと肉、野菜、ソースのバランスが大切と考えています」と、畑中さん。ワーズカフェのカツサンドは、美味しい個々の具材のオーケストラなのだ。

 

 

「喫茶店飲み」が堪能できる店と巡りあうには?

 

マヅラ

 

喫茶店で飲む愉しみというのは、前述のワーズカフェのように、喫茶店の文化を愉しみながら飲む快楽や心地良さである。筆者の経験でいうと、独自の文化のある喫茶店は、かなりの確率で、前述のカツサンドのような良いアテがあり、豊かな飲みの愉しみがある。

 

豊かに飲める喫茶店と巡りあうには、次のようなキーワードに着目するといい。
 
・劇場や寄席、美術館、ギャラリーの近所

・昭和の歴史的な建築物の飲食街

・古書街

・文化的な出版社、スタジオ、映画会社などの近所

 

周辺に文化的な施設があると、付近の喫茶店も影響を受けて文化的な空気の熟成が進みやすく、集客の助けになる。特にチェーン型の喫茶店やカフェが個人経営の喫茶店の存在を圧迫する傾向が強い昨今は、文化的施設とつながりのある喫茶店が生き残りに有利ということもある。

 

最後に、大阪にある“世界遺産レベル”の喫茶店をご紹介しよう。

 

大阪駅前第一ビル地下1階にある「マヅラ喫茶店」。大阪駅前第一ビルは、大阪万国博覧会が開催された1970年に完成。当時のレトロフューチャー感がさく裂したような店内。マヅラ喫茶店は、オープン時からの営業だ。ここは、そのまま濃厚な昭和後期の文化の歴史遺産である。

 

マヅラ

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そんなマヅラで、ミックスサンドとジンフィズを。

 

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世界中どこを探してもない、この店だけの昭和の味。

喫茶店飲みには、飲み屋やバーにはない不思議な魅力があるのである。

 

(2015.4.9「カンパネラ」より転載)

 

須田泰成

須田泰成さん

[PROFILE]

コメディライター/地域プロデューサー/著述家。1968年、大阪生まれ。全国の地域と文化をつなげる世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」代表。テレビ/ラジオ/WEBコンテンツや地域プロジェクトのプロデュース多数。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。

 

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