四万十源流でつくられた「真っ赤なチーズ」の意外な材料

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Webメディア「カンパネラ」からおいしいトレンド情報をお届け!四万十川の源流、四国山地に囲まれた村で作られている「津野山チーズ」。幻のチーズとも言われる真っ赤なチーズは、お酒に合う絶品のアテ。厳しい暮らしに育まれたこのチーズの、意外な材料とは?

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すっかり日本の食生活の一部となったチーズ。ワインのお供に最高、パスタやサラダなどの食材にピッタリ。スーパーやデパートに行けば、世界中のチーズが手に入るし、いまやコンビニでも、カマンベールチーズやブルーチーズが普通に棚に並ぶ。
 
普及したのは良いことだが、少し寂しいのは、珍しいチーズとの出会いが減ったこと。初めてブルーチーズを口にした時の感動は、多くの人にとって、いまや遠い昔の話だったりする。
 
そんなことを考えていると、「高知の山奥に幻のチーズがある」という情報が飛び込んできた。
 
冬になると積雪がある四国山地の山深く、四万十川の源流のある町の田舎家で作り続けられてきた真っ赤なチーズなのだという。
 
高知の山奥に幻の真っ赤なチーズを探す旅に出た。

 
 

四万十源流の「幻のチーズ」

 

高知市内から自動車で高速道路に乗り、須崎で国道197号線へ。北上すると、次第に山道に。40分ほどすると現れるのが、この看板。

 

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ここは、津野町。日本を代表する清流・四万十川の源流点がある不入山(いらずやま)がある山の町である。
 
町の地理と歴史に詳しい地元の教育長、川上一郎さんが出迎えてくださった。

 

「幻の真っ赤なチーズは、どこで食べられるんですか」と、筆者がたずねた。
 
「ああ、津野山チーズのことですね」と、即答。
 
幻のチーズは、津野山チーズと呼ばれているらしい。
 
しかし、続く言葉が不安を誘った。
 
「せっかくお越しくださいましたが、基本は、家庭で作って、自家消費するものなんです」
 
市場にはあまり出回らない幻のチーズ。そうと知ると、にわかに、食べてみたくなった。

 
 

「幻のチーズ」に至る道にパワースポット!?

 

「津野山チーズは、天狗高原の天狗荘で食べられるそうです」と、川上さんが調べてくださった。
 
天狗高原の天狗荘というのは、四国山地の標高1400mの天狗高原にある宿泊施設。天狗高原は四国の屋根と言われており、そばに四国唯一のスキー場があるという。
 
川上さんの案内で天狗荘へと向かった。
 
実は道の途中、四万十にまつわる面白いスポットがある。1つは、「土佐の幕末四天王」と呼ばれた吉村虎太郎の生家だ。2015年に復元されたばかりという。
 
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吉村虎太郎は、坂本龍馬に先駆けて土佐藩を出た、維新の志士だった。1863年8月に奈良で天誅組の変を起こし、五條の代官屋敷の襲撃に成功。しかし政情の変化と幕府軍の激しい追撃により、厳しい戦いを強いられた。味方の弾を受けて傷ついた体で、吉野の山中を敗走。27歳の若さで世を去った。高杉晋作らがその死を悼み、後に「維新の魁(さきがけ)」と呼ばれるようになった人物である。
 
「吉村虎太郎は、農民思いの庄屋だったと伝えられています。江戸時代の身分制度による圧政が農民たちを苦しめているのを見て、世の中を変えようと飛び出していったんですね」

 

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吉村虎太郎の生家近くに架かっている橋

 

眼下には、四万十川の源流の一本が清らかに流れていた。「四万十の源流にして、明治維新の源流」という言葉を思いついた。
 
吉村虎太郎は、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」には登場しなかった。地方を訪れると、知名度は低いが歴史に大きな影響を与えている人物の存在に気付く。吉村虎太郎に関しては、奈良の女性歴史研究家、舟久保藍さんの『実録 天誅組の変』(淡交社)が決定版という。
 
その後、山の中へ。維新の英雄の話から、一転、軽い話に。
 
「実は、恋のパワースポットと呼ばれる滝があるんですよ」と、川上さん。
 
「滝が恋のパワースポット?」
 
意味がわからないまま案内されたのは、長沢の滝。高さ34mある立派な滝。流れ落ちる水音が、何とも言えない癒やしの空気を醸している。

 

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「水が流れ落ちる穴を見てください!」と、教育長。
 
目を凝らしてみると、なんと、ハート型(笑)。

 

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見れば見るほどハート型。特に恋の祈願をするわけではないが、楽しい気分になった。
 
この辺りの地層は、およそ1億数千万年前のジュラ紀には海底だったところ。悠久の時の変化が、偶然、ハート型の滝を形成して現代人が有り難がっているのも、妙にオモシロイ。

 

 

四国の屋根で幻のチーズに遭遇

 

標高1400mの天狗高原は、別世界だった。先に述べたハート型の滝近辺の地層は、1億数千万年前には海底だったが、ここは3億年前に海底だった場所。

 

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天狗高原カルスト
 
「ここは、もともとは、海底火山が噴火した後に発生したサンゴ礁が積み重なってつくった石灰岩の地層なんです」
 
隆起した後、雨による浸食を受けて生まれたカルスト地形。山口県の秋吉台、福岡県の平尾台と並ぶ日本三大カルストの一つである。
 
天狗荘は、そんな神秘的な高原の尾根の一角にあった。

 

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中央奥に見えるのが天狗荘

 

「幻の津野山チーズは、ここで食べられるんですよ」
 
圧倒的なカルスト地形の威容に当初の目的を忘れていたが、我を取り戻し、天狗荘にチェックインすることにした。
 
燃えるような夕焼けの時を過ぎると夕食の時間。おもてなしは、海の幸・山の幸のフルコースだった。

 

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「これが津野山チーズです」と、教えられたのは、イチョウの左隣にある外側が真っ赤で内側が真っ白な、2切れのチーズ。

 

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食べてみると、その薄さに関わらず、しっかりした歯ごたえ、そして、ほのかな塩分とやや強めの酸味。これが、秀逸なお酒のアテ。
 
「旨いチーズですね!」と、筆者が思わず声に出すと、「実は、これ豆腐なんですよ(笑)」と、おかしそうな表情で川上さんが言った。
「この辺りは山が険しいので、豆腐屋の豆腐をいくつも縄で縛って運ぶのが普通だったんです。当然、硬いしっかりした豆腐でないといけません。冬になると雪であまり動けなくなりますから、豆腐を紫蘇(しそ)で漬けて保存食にしたんです。それを、最近、我々が津野山チーズと呼んでいるんです」
 
幻のチーズは、厳しい山村の暮らしから生まれた保存食だったのだ。
 
天狗荘の厨房で、紫蘇に漬けた状態のものを見せてもらった。

 

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紫蘇漬けにされた津野山チーズ

 

そして、大きめにカットして、皿に盛りつけていただいた。
 
お酒との相性を確かめるべく、ツマミながらビール、白ワイン、日本酒を少量ずつ飲んでみたが、どれもなかなかいける。塩に凝ってみたり、スパイスで遊んでみたり、他の食材と組み合わせてみたり、味の楽しみは無限に広がると感じた。

 

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津野山チーズをお取り寄せできるサイトもあるそうだ。チーズが珍しくなくなった今、津野山チーズで、友人を驚かせてみてはいかがだろうか。
 
 
■参考Webサイト:
津野町Webサイト
天狗荘

 

(2016.5.26「カンパネラ」より転載)

 

須田泰成

須田泰成さん

[PROFILE]

コメディライター/地域プロデューサー/著述家。1968年、大阪生まれ。全国の地域と文化をつなげる世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」代表。テレビ/ラジオ/WEBコンテンツや地域プロジェクトのプロデュース多数。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。

 

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