小倉ヒラクの「手前みそTIMES」

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【第7回】大豆が味噌に変わる瞬間(とき)。発酵の不思議を紐解く!

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。

味噌汁、飲んでますか? 発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

今、発酵業界で最も邪道なコンテンツだと噂の『手前みそTIMES』も7回目を迎えました。

 

「味噌のことばっかりでよく7回も続くもんだ」

「いや。よく考えたら実はあんまり味噌の話してなくないか?」

「そろそろ専門家としての知見を披露しても良さそうな頃だが…」

 

そうなんすよ。

僕の専門である「発酵学」の知識、全ッ然活用されてない(汗)。なので今回は、ちゃんとサイエンスな記事を書きます。どうぞよろしく。

 

「…えっ?私、自分探しとか不毛な恋とかこじらせ系の話を読みに来たんですけど?」

 

あーすいません、そういう方は東村アキコさんの漫画を読んでくださいね?

 

 

味噌は発酵食品である。
で、発酵食品ってなに?

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お味噌って、美味しいですよね。毎日食べても全然飽きない。では、ほぼ同じ原料である「塩をふった煮大豆」はどうでしょうか?美味しいかもしれないけど、毎日食べたいかというと、そうでもない。

 

この違いはどこで生まれるのか?

答えは発酵しているかどうか。味噌は発酵しているので、煮大豆よりも味わいが豊かで飽きないのです。

 

じゃあ発酵って何よ?って話ですよね。発酵とは「人間に有用な微生物が働く」ことです。

 

「てぇことは何だい、煮大豆に小っちぇえ菌がつくと味噌になるってことかい?」

 

その通りですぜ、ダンナ。発酵食品とはつまり、「微生物が取り付くことにより、美味しく栄養いっぱいになった食べ物」を指すわけです。その中でも、味噌は原料が単純なのに奥が深いという、発酵食品を考えるうえではとても面白い存在なのです。

 

 

味噌の深い味わいを作りだす方程式

さあ、それでは大豆が味噌に変わる瞬間(と書いて「とき」と読む)を紐解いていきましょう。

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味噌の原料には、大豆と塩の他に「麹(こうじ)」というものがあります。お米や麦などに「麹菌」というカビの一種を生やして、モコモコさせたもの。

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「カ…カビですってぇ?そんなもの使ったら食べ物が腐ってしまいますわ!」

 

落ち着いて下さい、奥さん。麹菌は人間に悪さをしないスペシャルなカビなのです。このカビがびっしり生えた「麹」はつまり、パンにおけるイーストのように「発酵のスターター」としての役割を果たすわけです。

 

以下、順を追って味噌が発酵していく過程を説明します。

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◆塩を入れることで、ばい菌を締め出す

まずは発酵の下準備。大豆に塩を入れることで腐敗を防ぎます。塩には発酵菌だけが生きられる「バリア」を作り出す働きがあるんですね。よく玄関に塩を盛ったり、相撲の試合の前に塩を撒いたりします。「塩は悪いものを祓う力がある」ということをご先祖様はよく知っていたわけですね。

 

◆大豆に麹菌をくっつける

大豆にはタンパク質やデンプンがいっぱい含まれています。麹菌はこれを酵素のハサミでチョキチョキ分解して、味噌の味のベースとなる「旨味」や「甘味」を作ってくれます。

 

◆乳酸菌や酵母がやってきて、複雑な味に

さあ、ここが味噌の発酵のハイライト。麹菌がつくった「旨味」や「甘味」につられて、乳酸菌や酵母など他の発酵菌がやってきます(赤提灯につられて飲みにくるサラリーマンのおじさんをイメージしてください)。
この乳酸菌や酵母が、今度は「酸味」や「香り」をつくり出します。これが味噌特有の「味の深み」を醸し出していくわけです。

 

まとめると、こういう方程式。

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タンパク質やデンプンの味 by大豆
 +
塩味 by塩
 +
旨味・甘味 by麹菌
 +
酸味・香り by乳酸菌&酵母
 ↓
味噌の美味しさ!

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味のバリエーションが生まれる理由

以上のような原理で味噌の複雑な味が醸成されていくわけですが、まだ謎が残ります。それはなんで日本全国色んな味の味噌があるの問題ですね。

 

これ、発酵の入門書にはあまり書いてないとこなので、改めてメモしておきましょう。

 

◆発酵させる期間

同じ味噌でも、3ヶ月寝かせるのと3年寝かせるのだと味が全く変わります。短い期間だと、乳酸菌や酵母がじゅうぶん働いていないので、麹菌のつくる甘味が主体になります。原理としては「大豆でつくる甘酒」に近い感じです。長い期間寝かすと、他の菌が甘味を食べて酸味や香りを出すので、甘さは消え、変わりにコクや複雑さが増していきます。

 

◆麹と塩のバランス

味噌づくりにおいて、麹と塩はシーソーのような関係になっています。麹を増やすと塩を減らし、麹の甘味と旨味が優勢になります。塩を増やすと麹を減らし、塩味や酸味、コクが強くなります。麹の量で味を比較するとこんな感じ。

 

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麹量:白味噌>九州麦味噌>赤味噌

風味: ↑甘味   ↑旨味   ↑コク

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◆麹の種類

味噌の麹の種類は大きく分けて3種類。米、麦、大豆に麹菌をくっつけたものがあります。この3つでそれぞれ味が違う。傾向としてはこんな感じ。

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米=塩味・酸味が強い

麦=さっぱり甘い

大豆=コクとクセが出る

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味噌汁を飲むと、その土地の食文化がわかる

さて。発酵デザイナーを名乗っていると、日本各地から「ウチの発酵食品食べてみないかね?」とお誘いいただく機会があるわけです。そうするとですね、日本全国津々浦々に「一般的な原理が通用しないフリーダムすぎる味噌」がいっぱいある(←そのうち解説する予定)。

 

縦に細長い日本列島では、北と南では食文化が全然違う。その食文化にあわせて、味噌の味もまた様々なバリエーションが生み出されているわけです。裏を返せば、その土地の味噌汁を飲むと、郷土食文化の特徴や人々の味覚のセンスがわかる、ということでもあるのですね。

 

この「単純なようでいて無限の多様性がある」というのが味噌の面白いところでして、いつのまにか僕の「発酵専用冷蔵庫」には常時約20種類の味噌がスタンバイしていることに…。こんなたくさんの味噌、どうやって使いきればいいのでしょうか?

 

それでは次回「シンプルが深みになる。ミニマリスト味噌汁」でお会いしましょう。発酵デザイナーの小倉ヒラクでした。

 

 

「…で、結局こじらせ話が出てこなかったんですけど?」

 

って姉さん、結局最後まで読んでたんかーい!