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【第9回】ウチの数だけ味噌の味。変わり種味噌の秘密に迫る!

味噌汁飲んでますかー!? 発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

僕、20歳くらいの頃、バックパッカーやってました。狭い日本の社会に嫌気がさして、もっと広い世界を見てみたいな〜なんて思っていたんですね。そして10年後。仕事で日本各地をあちこち旅するようになりまして、20歳の僕に言ってやりたいことがあります。

 

「小僧…、日本の広さをナメるな…!?」
いやほんと、2つの海に挟まれた、やたら細長い島国では、東西南北まったく違った郷土文化が根付いています。

 

「いるよね。こういう教科書から抜き出してきたような薄っぺらい文化論語るオッサン。マジでイケてないわー、もう東南アジア行ってチル(*注1)するしかないわー」

*注1…チル(英:chill)=くつろぐ、リラックスするの意味

 

では、具体例をお見せしよう。日本の文化の多様性は、味噌でわかるのであるよ。ということで、今回は日本各地で見つけた「ユニークすぎる変わり種味噌」を紹介します。小僧ッ…、耳の穴かっぽじって聞けィ!

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変わり種レベル☆

甲州味噌(山梨県全域)

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通常、味噌は米、麦、大豆のどれか一種類のこうじで作ります。しかし例外として、複数のこうじをブレンドして作る「合わせ味噌」という文化を日本各地で見ることができます。

 

その中でも特にユニークなのが、山梨県の「甲州味噌」。他の合わせ味噌と違い、仕込む段階で米・麦2種類のこうじを混ぜるという妙に手間のかかることをしています(普通はすでにできあがった味噌を混ぜる)。

 

なぜこのような味噌ができたのかというと、時は戦国、武田信玄の時代まで遡ります。天下統一を目指す武田軍は、当然遠い場所に兵を送らなければいけません。その時に兵糧食として重宝されたのが味噌。行く先々でとれる食材を味噌汁にして飲んでいたのですね(しかも味噌は腐らない)。

 

ということで、味噌の大量生産が必要だったのですが、山梨県は山ばっかりで水田がじゅうぶんに確保できない。そこで、米の裏作である麦も一緒に混ぜて味噌にすることで収穫量を確保したわけでした(昔は稲と麦の二毛作をやっていた)。

 

さてそんな甲州味噌。肝心の味はどんな感じかというと…?

 

一言でいうと、米味噌と麦味噌のいいとこ取り。米味噌のコクと、麦味噌の旨みがいい感じにブレンドされています。ただ、若干の苦味というかクセがあり、ここが好き嫌いの別れるところ。山梨のソウルフード、ほうとううどんのスープとして使われます。具材になるかぼちゃや人参の甘味と相性バッチリです。

 

 

変わり種レベル☆☆

蘇鉄(そてつ)味噌(奄美諸島・粟国島)

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離島経済新聞というユニークなフリーペーパーの編集長の鯨本さんから「ヒラク君が好きそうだと思って」と渡された奄美大島伝統の不思議なお土産。調べてみるに、米でも麦でも豆でもなく、なんと蘇鉄(ヤシみたいな木)の実に菌をつけてこうじにするというワイルドすぎる味噌でした。

 

離島ではしばしば米や麦などの主食が不足することがあるので、救荒作物として蘇鉄が使われたようです。

蘇鉄にはコウジカビの好むでんぷん質がいっぱい含まれているのですが、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドという毒も含まれている。

 

栄養もあるけど、毒もある。どうする?答えはもちろん発酵する!蘇鉄の実を割って、空気中にいる微生物に毒物を分解してもらってから味噌にするという方法を発明することで、「米や麦がなくても味噌汁は飲む」というミラクルを実現したわけです(人間ってスゴい)。

 

この蘇鉄味噌ですが、大きく分けて2種類あります。

 

1つは、豚肉などと混ぜてご飯の友やお茶うけにするタイプと、味噌汁にするタイプがあります。発酵好きにオススメなのは断然前者で、ご飯にかけて丼にすると地獄のように箸が進みます。ブレンドされた豚肉の旨味と、どこかエキゾチックな風味があいまって、南国の風を感じる…ヒマもなく、挫折した心の痛みからひたすらご飯を食べまくる「宮本から君へ」状態になること間違いなしです。

 

後者の調味料タイプですが、味噌汁にしてみると…、あれ、普通だ。まあ蘇鉄で普通に味噌を作れてしまうのがスゴいんだけど。

 

 

変わり種レベル☆☆☆

味噌玉(長野県木曽町)

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(ざわ…、ざわ……)

(なんだあのカタマリは?)

(モザイクでもかけているのか?)

 

否(いな)、否否否ァーーーー!!

これが味噌界の生んだ異端児、味噌玉ッ…、味噌業界の通念を完膚なきまでに破壊する、魔神のごとき存在ッ…!

 

…となぜ中二病バトル漫画のようなテンションになってしまったのかよくわかりませんが、僕の出会った中でもトップクラスの衝撃を受けた味噌であることは間違いありません。

 

この味噌玉ですが、もはや通常の味噌の常識が当てはまらなさすぎて震える。円筒形に切った煮大豆を、春先の涼しい蔵に置いておくと、カビが付着しゆっくりと胞子を伸ばしていき、そのうち写真の「ペルシャ猫 or モザイク」のような衝撃的なビジュアルになります。このカビのベールの下、様々な微生物たちが大豆を分解し、複雑な味と香りを醸成していきます。

 

で。2週間〜1カ月くらいかけていい感じに熟成したら、表面のカビを取って、米こうじと混ぜて仕込むという「なぜそうなった?」としか言えない複雑なプロセスを経て味噌になります。

 

…まあでも、正直作り方の面白さなんて別に大したことないんですよ。

味の面白さに比べれば…!!

 

封を切った瞬間に「なんだこの臭いはッ…!?」「緊急事態なのか? 今、何かの緊急事態なのか!?」とアラームが鳴りまくる、人生で嗅いだことのないかぐわしさがお目見えします。

そして一口食べてみれば濃厚すぎる酸味と甘味と旨味が怒涛のように押し寄せてくるという、ヘヴィー級パンチの連打を喰らえ!的なスゴい仕上がりになっています。

 

僕も初めて食べた瞬間「……ッ!?」としか感想が浮かびませんでした(←それは感想とは言わない)。あまりにも一般的な味噌の味とかけ離れすぎていて、アタマが混乱してしまったのですね。

 

なぜこのような味わいになるのか。それは、前述の「円筒形の味噌に様々な微生物がくっつく」プロセスに秘密がありました。

 

通常、味噌は仕込みの時に塩を入れることで雑菌をブロックします。ところが、この味噌玉は最初の段階では塩を入れません。おそらくかつて貴重品だった塩を節約するための措置だと思うのですが、これが結果的に面白い発酵作用を起こします。

 

通常味噌を発酵させる菌は塩に強いタイプのみなのですが、この味噌玉では塩があると寄ってこない発酵菌も呼びこむのです。(ちなみになぜ塩を入れなくても腐らないかというと、蔵が涼しくて通気がいいので雑菌が少ないから)

 

この塩に弱い発酵菌は、おそらくチーズなどをつくる菌だと思われます。こいつらがあの独特の香りと味を作り出すのです(あと多分納豆菌もいる)。

 

この味噌玉の味は、フランスやイタリアなどの「スゴい臭いのチーズ」によく似ているんですね。味噌汁にすると緊急事態な感じになるので、酒の肴にして楽しむのがオススメです。

 

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日本は広い、そして世界はもっと広い

いやあ、お味噌って、本当に素晴らしいですねえ(←水野晴郎調で)。まだまだ僕の出会ったことにない個性的なお味噌が日本各地にあるのでしょう。つくづく、お味噌は日本の食文化における「多様性のモノサシ」だなって思います。

 

そして。

実はお味噌は日本だけの文化じゃあないのだな。韓国、中国をはじめ、インドネシアやタイ、ベトナムなど東アジア一帯にまだ見ぬ不思議なお味噌があまた存在しているのですよ。今から20歳のバックパッカ—に戻れるとしたら、「自分探し」じゃなくて味噌探しやるだろうな。

 

それでは次回「肌がキレイな貴方が好きです。トキメキ美肌味噌汁」でお会いしましょう。発酵デザイナーの小倉ヒラクでした。

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