小倉ヒラクの「手前みそTIMES」

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【第12回】実家のトラウマを払拭する「なすの味噌汁」

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。

師走ですが、『ウコン』飲んでる場合じゃないですよ。味噌汁、飲んでますか? 発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

よく「食習慣は親から受け継ぐ」なんていいますよね。朝から晩まで味噌汁を研究しまくりのヒラクの親はさぞかし味噌汁上手だったのであろうよ…

 

と、思うじゃないですか。ところがね、僕のおかん、破壊的なまでに料理がヘタだったのですよ。

 

考えるに「料理がヘタである」というのには2種類あります。1つは、「料理を作らないからヘタ」というもので、少女漫画とかによく出てくる世間知らずの箱入り娘が披露しがちなのがこのヘタさです(あっ、ワタシもそうかも…とか思い当たっちゃっているそこの貴方、いつまで箱に入ってるつもりですかぁっ!?)

 

さて。
ではもう1つの料理ベタはどんなタイプかというと「いくら訓練してもさっぱり上達しない」というタイプです(スラムダンクでいうところの「彦一」みたいなタイプです)。研究熱心さと実力が比例しないんですね。

ヒラクのおかんは後者のタイプとしてのクオリティが素晴らしく、子供たちに未来永劫消すことのできないトラウマレシピを供しておりました。そのなかでもマスターピースと言えるのが、なすの味噌汁なすの投入しすぎで、汁が全面的に紫色に変色したホラーなビジュアルをよく覚えています。

 

ということで、今回はこの連載の場を借りて僕のトラウマを成仏させようと思います。要チェックや!

 

 

 

母は極端を行く。僕は真ん中を行く

それでは今月の味噌汁レシピ、いってみよう!

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レシピ名:ちょうど良さを追求したなすの味噌汁

 

レシピ(2〜3杯ぶん)

味噌:麦味噌…大さじ1.5〜2

ダシ:かつお節(花がつおタイプ)水0.4Lに対して約8〜10g

具材:なす…1/2本、 じゃがいも…1/2個、乾燥わかめ…適量

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プシューッ…!!(←タイムマシーンのドアが開く音)

「お兄ちゃん…、なんで僕のお母さんの味噌汁は美味しくないの?」

「泣かないで、昔の僕よ…。今からお兄ちゃんが説明してあげるからね」

 

おいしい味噌汁とは、要はバランスです(って当たり前ですけど)。必要じゅうぶんのダシを取り、適量の具材と、その具材に合う味噌を選ぶ。この「過不足のなさ」「ちょうど良さ」というものを普段から心がけることができれば、誰にでもおいしい味噌汁が作れるはずなのです。

 

それではその「ちょうど良さ」を解説していきましょう。

 

◆なすの淡白な味にマッチするかつおダシと味噌

今回チョイスしたのはかつおダシと麦味噌。かつお節は、和食のダシの王様と言っても過言ではない存在。麦味噌はもうこの連載ではおなじみですね。東北系の米みそよりも旨味が強いお味噌です。リッチで華やかなダシの香りと旨味が、なすの淡白さを補完してくれます。

 

◆具材を入れ過ぎない

こんなこと当たり前すぎて食専門のWEBサイトに書くのもどうかと思うんですけど、具材を入れすぎないのが大事です。ヒラクのおかんはサービス精神が旺盛なのか、味噌の色がわからなくなるほどの大量のなすを入れてしまい、その過剰さが味も見た目もホラーにしてしまうわけです。ほらよくあるじゃないですか。愛が行き過ぎてストーカーになってしまうようなホラー映画が。あれも要は「バランスが極端」ということが悲劇のトリガーを引いてしまうわけです。

 

◆適切なタイミングをはかる

おいしい味噌汁(というか和食全般)は、とにかく適切なタイミングで調理することが肝要です。この点においてもヒラクのおかんは大変にエクスペリメンタルなパフォーマンスを披露しておりまして。レッド・ツェッペリンにおけるジョン・ボーナムのドラムをさらに過激にしたようなタイム感を刻んでおりました。

 

適切な食材・量・タイミング。坊や、これが大事なんだとお母さんに言ってあげておくれ。頼むよ。

 

 

それでは、実際につくってみましょう

 

今回のレシピの難易度も中級の星2つ。ハードルはかつおダシだけです。

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まずはかつお節を用意。スーパーで一般的に売っている、薄くスライスされた「花がつお」というタイプを使用。「えっ、こんなに使って大丈夫なの?」と心配になるぐらい使いますが、勇気をもって進め!

 

【ポイント】
ちょっと高くなりますが枯節(こうじカビの一種をつけて発酵熟成させたもの)をチョイスするとうっとりする香りと旨味が出ます。

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お湯が沸騰したら火を止め、かつお節を投入。すると、

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お湯に浮かんだかつお節が…

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だいたい1〜2分ぐらいで広がり、お鍋の底へ沈んでいきます。

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そしたらザルを用意して、

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ダシ汁を濾していきます。

 

【ポイント】
2分たったらすぐに引き上げる!それ以上置くとせっかくの香りが臭くなってしまいます。和食のダシはスピード感が命!

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高貴な飴色のダシが取れました。もうこれだけゴクゴクと飲みほしたい。

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なすとじゃがいもをいちょう切りにしていきます。全部まるごと切りたくなる気持ちを抑え、あくまでちょうど良さを優先します。

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ダシ汁のなかに具材を入れ、弱〜中火で10分から15分コトコトと煮ていきます。

 

【ポイント】
焦げた臭いがついてしまわないよう、沸騰させないように気をつけます。また、なすとじゃがいもの食感がフニャフニャになってしまわないように、15分以上は煮ない。

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最後に火を止め、味噌を溶き入れてできあがり。もう飲む前からいい香りが漂ってきます。

 

 

声をあげて、飛び上がるほどにおいしい

 

坊や、できたよ。さっそく飲んでみてごらん。

 

(ズズッ…)

 

「な…なんて美味しいんだ!かつおダシの香りと味噌の旨味が和食の普遍を体現し、そして程よく食感の残ったじゃがいもがホクホク、ナスがプリプリだ〜!」

 

(なんか、知ったような口を効く子供だな…)

 

動物性のかつおダシとなすは相性いいんですよね。シンプルなレシピですがリッチ感もあって満足いただけるレシピではないでしょうか。

 

「満足したっ!味噌汁最高〜!!

 

ということで、無事過去のトラウマを払拭することに成功しました。
小さなお子さんがいるお母さんも、日々の生活にうるおいが欲しいスサノ子もどうぞお試しあれ。

 

ヒラクのおかんの料理は正直おいしくなかったですが、それがかえって「おいしいものを食べたければ自分で作るべし」という好奇心を育んだのでしょうか。もしおかんが料理上手だったなら、僕は道を踏み外すこと無くフツーのデザイナーとして華々しく活躍し、今ごろ西麻布あたりのお洒落なレストランでフレンチやイタリアンを嗜む日々を送っていたかもしれません。

 

そしてそこで出会った可憐な女子とねんごろになり、ある朝彼女のつくった「なすの味噌汁」を飲むんですよ。

 

「げ…激マズじゃねえかよォ!」

 

 

【後日談】
ちなみにヒラクおかんは、息子の味噌汁レシピを読んで研究しているらしく、こないだ実家に行ったらば、まさかの「ちゃんとおいしい味噌汁」が出てきました。人間何歳になっても進歩できるということをしみじみと実感しました。

 

おかんよ、色々文句を言いましたが、あなたのおかげで僕は元気にすくすく育ち、おいしいお味噌汁も作れるようになりました。若干アヤしい仕事で心配かとは思いますが、ヒラクは元気です。

 

ありがとう。