小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第29回】ワインにおにぎり?甲州ワインと和食の異次元マリアージュ

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

僕の住んでいる山梨ではワインの季節を迎えました。ブドウ畑が紅葉を迎え、新酒が出回るパラダイス感ありすぎの季節です。
やっほー!

 

150年続く、リアルローカルなワイン文化

 

世田谷区よりも人口の少ない山梨県ですが、実は80以上のワイナリーがひしめく日本のワインの首都。
 
とりわけ僕の住む峡東地区は、勝沼を筆頭に40〜50以上のワイナリーが集まるワイン醸しまくりエリア。

 

秋、ブドウを収穫する時期を迎えるとまちのあちこちからワインの発酵するかぐわしい匂いが漂ってきます(誇張じゃなくてほんとに)。

 

さてそんな山梨の誇るワイン文化。
 

明治の文明開化とともにスタートし、およそ150年の歴史を持っています。僕の住む峡東地区は戦争で建物が焼けなかったので当時の風情のままの蔵がたくさん。軒先には日本酒用の木樽が置かれ、人力のブドウ絞り機が残っていたりします。

 

ここ山梨のワインは「洋酒」ではなく、老若男女が親しむ地酒。僕が山梨に引っ越してきてビックリしたのは、おじちゃんがステテコ姿で湯呑みにワインを注いでナイターを見ている光景。ワインというより葡萄酒、土着すぎる独特の文化が根付いているんですね。ローカル極まりねえ…!

 

***

 

ガラパゴスすぎる文脈の醸造テク

 
では次に、具体的な醸造方法にフォーカスにしてみましょう。
 
山梨のワインは歴史もユニークなら、醸造方法もユニーク。とりわけ特徴的なのは、使うブドウの種類です。
 
例えばフランスでは、ワインは一般的にワイン専用ブドウで醸されます。カベルネ・ソーヴィニヨンとかメルローとかシャルドネなんかが代表的な品種ですが、これはそのまま食べる用ではなく、ワインを醸す用にチューンナップされたブドウです(日本酒における山田錦とか五百万石みたいな酒米みたいな感じ)。

 

対して、山梨のワインで最も一般的に使われるブドウは、その名も「甲州」と呼ばれるローカルな在来ブドウなのですね。
 

甲州ブドウは1000年以上前に西アジアからシルクロードを渡ってやってきた、ものすごく古いDNAを持つ山ブドウに近い品種です。

 

もちろんワイン用にチューンナップされているわけもなく、普通に果物として地元民がおやつにしていました。薄い桃紫色でヨーロッパのワイン専用ブドウよりも粒が大きく、巨峰などのデザート用ブドウよりも粒が小さい。赤ワインにするほどの濃い色素や渋みがなく、酸味も穏やかなので比較的軽めな白ワインに仕上がります。

 

古いローカル食用ブドウで醸したローカル白ワインは「甲州ワイン」の代名詞として、おじちゃんおばちゃんからワイン好きの若者まで毎日ガンガンに山梨で消費されています。

 

そしてだな。白ワイン用の甲州ブドウだけでなく、赤ワイン用のブドウも面白いんだよ。
 

赤ワイン用ブドウの代表品種、ピノ・ノワールやシラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの名前はワインファンならだいたい知っているはず。ところが山梨で醸される赤ワイン用ブドウといえば、マスカットベリーAとかブラッククイーン、アジロンダックなど「なんだそれ?聞いたことないぞ?」というような品種がいくつも出てきます。

 

現在世界のワイン醸造地で使われる赤ワイン用ブドウの品種はほぼ100%「ヴィティス・ヴィニフェラ種」に属するブドウ品種。西アジア〜ヨーロッパルーツのブドウです。
 

ところが!マスカットベリーAやブラッククイーンといったブドウはアメリカ大陸ルーツの、本来はワイン醸造用には使われない食用ブドウなんだね。

 

なぜヨーロッパ系ではないブドウでワインをつくることになったのか。そこには日本独特の気候の問題があったのですね。

 

ワイン用のブドウは基本的に乾燥した土地で育つ。一日中太陽の光にさらされ、ほとんど雨が降らず、水はけのよい乾いた土の環境を好む植物。
 

なんだけど、日本といえば梅雨はあるわ、土は粘土質だわ、霧が出るわ…とブドウ栽培に適した気候じゃないんだね。だからヨーロッパ系のブドウを育てると湿気による病気に悩まされることになる。

 

ところが。

 

アメリカ系のブドウや甲州ブドウはそのテの病気に比較的強く、安定して収穫できる。明治のワイン黎明期、山梨ワインのイノベーターたちは「病気になりにくいこと」を条件にブドウ品種を選抜し、フランスやイタリアとはまったく系統の違う品種でワインを醸すようになった。

 

うーん、めちゃ興味深いですなあ。

 

***

 

郷土料理との不思議なマリアージュ

 
ヨーロッパ系とは違う系譜で生まれた山梨ワイン、味も当然ユニーク。
 

どっしりしたボディ感やパンチのきいた酸味、奥行きのある渋味など、僕たちが一般的にイメージする「イケてるワイン」的な要素はそこまで強くない。そのかわり、ブドウの種がほのかに香るような爽やかさ、川の清水のような瑞々しさ、野いちごや柑橘のような香りなど、なかなか風情のある風味がいい感じです。

 

そんでさ。ワインってば食中酒なわけじゃん。山梨のワインって、和食にめちゃよく合うんだよね。

 

地元の友だちが普段やっているような食べ合わせをいくつか紹介するとだな。
 

甲州ブドウの白を、かぼちゃの煮物やほうとう(山梨のソウルフードごん太煮込みうどん)にあわせる。
 

マスカットベリーAの赤を焼き鳥やもつ煮込みにあわせる。ダシや味噌・醤油の味に不思議にマッチして食も酒もめちゃ進む。

 

まあこのへんまでだったらまだ想像の範囲内。もっとスゴいマリアージュもある。

 

アジロンダックの赤ワインに“たくあん”を合わせたり、甲州の白ワインにおにぎりを合わせたりする。なんなら、ぬか漬けやお浸しにワインをガンガン合わせていく。
 

山梨はワインが根付いているわりには、昔からの郷土食の伝統をキープする保守的な食文化なので、摩訶不思議な食べ合わせが家庭の食卓で当たり前に繰り広げられているんですね。

 

山梨に遊びに来たらぜひトライしてほしいのが、お寿司屋さんで地元のワインを楽しむこと

 

海のない山梨県では、お寿司屋さんはネタの新鮮さではなく、一手間かける創作おつまみ的なお寿司(ネタを漬けたりとか〆たりとか)で勝負するお店があります。そういう「一手間系お寿司」に比較的ドライな甲州の白ワインやフルーティなマスカットベリーAの赤ワインを合わせると経験したことのない味覚を楽しむことができますぜ。

 

 

和食×地酒ワイン最高〜!!!!

 

それではごきげんよう。

 

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