小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第35回】全国の日本酒ファンに告ぐ! 夏こそ熱燗が最高な理由。

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

今日は久々に僕の専門のひとつである日本酒の話をしようではないか。

 

お題はズバリ、夏こそ熱燗を飲むべし!

 

 

夏こそ熱燗が最高な理由

太陽ギラギラ、湿気マックスな夏の飲み物といえば、ビールやハイボールなど爽やかな炭酸系のお酒。

 

もちろん僕もこういうお酒も大好きなんですけど、実はこの季節の日本酒もなかなか乙なものなんですね。

 

「夏の日本酒…つまり夏酒ってこと?」

 

うん。それも悪くない。

 

夏酒とは、夏向けにチューンナップされた日本酒で、白ワインのように酸味や甘味があって飲み口がスッキリしていたり、オンザロックでやや薄めて飲んで心地良いように設計された日本酒のこと。ビーチサイドでワインやカクテルのようにオシャレに飲める季節限定ドリンクなんですね。

 

でも聞いてくれ。

 

僕の夏のフェーバリットは、あえての燗酒なんだ…!

 

暑い夏こそ、熱燗が最高なんだYO!!

 

「えっ、どういうこと?素人でもわかるように説明プリーズ!」

 

いいとも。

 

熱燗といえば冬の定番なんだけど、寒い冬に熱燗飲むと「身体あったまる〜!」という感覚が先行して味のディテールが味わえなかったりする。

 

ところがだよ。夏に熱燗飲むと冬よりも味わいのディテールがわかるんだ(すでに身体温まってるからね)。しかも!暑い状態でさらに熱燗飲むとうっすら汗が出てくる。

 

つまりだな。夕暮れ、飲み屋さんのテラスや家のバルコニーで風なんかで初夏のそよ風がうっすらにじんだ汗を乾かしていく……みたいな感覚が超絶サイコーで全米も全日本も全宇宙も泣いた! のち衝撃の展開に震撼!さらにラスト3分、信じられない幕切れに唖然!! 飲酒史上類を見ない最高傑作!!!

 

…と叫びたくなる感動体験なんだよ。

 

 

ライト燗酒とフルボディ燗酒を比べてみよう

こんな感じで、夏こそ日本酒の真髄たる熱燗を堪能しまくれるシーズン。

 

ではどんな感じの酒をセレクトしてみるのが良いのか? 僕なりのオススメコースをお伝えしようではないか。

 

前述の通り、夏は酒の味を吟味しやすい。だから、味の性質の違う燗酒を飲み比べるのが楽しいんだよね。

 

飲み比べしやすいように、まずは2つの極を置く。

 

まず、1つめの方向性としてライト燗酒

 

熱燗を飲んだことのない人でもすんなり飲めるタイプから始めるといいと思われる。冷酒の飲み口の良さや香りのはなやかさ、喉越しの良さをキープしつつ、燗酒のまろやかさや味の余韻も楽しむことができるいいとこ取りスタイルだぜ!

 

比較的フレッシュで、酸味や甘味がある香りのよい酒を40℃前後の比較的ぬるめの温度で燗付けして飲む。普通の純米酒が標準だが、モノによっては吟醸や大吟醸を燗にしても美味しい。

 

老舗の酒蔵のスタンダード銘柄の純米/本醸造、あるいは伝統的な酒造りにこだわる比較的飲み口のある重めの酒の吟醸や大吟醸酒あたりがこのライト燗酒に最適ですぞ (具体的な銘柄を挙げだすとキリがないので割愛)。

 

ちなみに最近はいくつかの通好みの酒蔵から「燗酒用の高級吟醸酒」もリリースされています。「燗酒といえば安いパック酒用」とされていた時代は去った。我ら日本酒ラバーは最高の時代を生きている…!

 

2つめの方向性はフルボディ燗酒

 

日本酒を温めることで際立つ米の旨味、麹特有のかぐわしさ、そして酵母がつくりだす魔術的香りのたおやかさ。こういう奥深い味わいをじっくり愛でるのが熱燗の真骨頂であり、ワインにもウィスキーにも真似できないユニークな飲酒体験なのですなあ。

 

これはボディ重めの酒を何年か寝かせて古酒にしたものを、50℃前後(場合によってはもっと)の高い温度で燗付けにするのが究極。製法も江戸時代のスタンダードである野性の乳酸菌を活かした生酛(きもと)や山廃仕込みがハマる。

 

地域でいえば、中国山陰がこの「フルボディ熱燗」に適した銘柄が多い。このエリアでは燗酒の文化が発達しているので、飲食店やバーが独自に店主お気に入りの酒をワインのように寝かせ、コンディションに合わせた温度で燗付けをしてくれたりする。

 

「ライト燗酒」でイケる!と思ったら段々とボディのしっかりした燗酒に移行していくと日本酒のさらなる愛で方を習得できるよ…! 美味しいよ…! 楽しいよ…! サイコーだよ…!

 

 

でね。実は3つめの選択肢もある。

 

それは、オールドスクール燗酒だ。

 

これはなんと! スーパーの特売棚で売っているパック酒を熱燗にして飲む、ひと昔前のおじさんスタンダードスタイル。

 

僕、これまで日本各地で美味しいお酒をたくさん飲ませてもらってきたのですが、ひと通り高級酒を飲んだ後にこういうスタンダード酒を飲むとね、

 

「むむむ…ううう美味い…!! 安定感ハンパない〜!」

 

と、感心するしかない素晴らしい出来!

 

超大手や超老舗のCMでお馴染みの超定番のパック酒を、まあまあ高めの温度で燗付けしてゴクリと飲んでごらん。すげーイケてるんだよ。

 

 

マイペースに夏の夜長を堪能しよう!

熱燗は、冷酒のようにスイスイ飲まないのでマイペースにじっくり飲むスタイルになる。そして体温に近い温度でアルコールが摂取されるので、飲んだぶんだけじわじわ酔いがまわる。だから飲み口のいい冷酒をどんどん飲んで、

 

「飲みやすい! 水みた〜い………! ガクッ! (と膝から崩れ落ちる)」

 

みたいな緊急事態になりにくい。

 

自分のペースにあわせてゆっくり、じっくり飲むのが熱燗スタイル。

 

夏の夜は長い。浴衣でも着て水辺でうちわを扇ぎながら1人でも友人や恋人とでもじっくり熱燗を楽しむ。話が弾んでいるうちに、さっき熱々だった酒がいつのまにか人肌になっていて、それはそれでまた美味しい…!

 

みたいなサマーホリディ、どうよ? なかなか風流じゃないかしら?

 

 

それではごきげんよう。