小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第15回】インスタグラム的コミュニティによって受け継がれる種麹(たねこうじ)の消息

発酵デザイナー小倉ヒラクのコラム
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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

 味噌汁飲んでますか?

発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

えー、最初に懺悔させてください。
最近の記事、あまりにも趣味に走りすぎていたことを。

 

僕、博多の麺類が好きなんです〜

友だちと美味しいお酒飲んでHAPPY☆

 

ってお前、インスタ強者の読者モデルかよ!?てな話なので、今回はちゃんと発酵スペシャリストの知見を披露したいと思います。

 

ということで、今回は麹(こうじ)をつくるスターターとなる「種麹」の文化についてお話ししたいと思います。

 

 

麹(こうじ)の素=種麹(たねこうじ)

日本の発酵食品の素となる、麹(こうじ)。

お味噌や醤油、酒など日本の発酵食品を仕込む時にかかせない食材です。しかし発酵食品を手づくりする文化が失われるとともに、新橋のSL広場でサラリーマン百人にインタビューしてみたらば、十中八九

 

「麹?なんだそれ?」

 

と言われそうな存在にフェードアウトしてきたこの麹。

 

しかし、ここ数年の発酵ムーブメントにより、甘酒や塩麹の人気が急騰したこともあり、こだわり系スーパーや自然食品店で麹を手に取る人が増えてきました。

 

☆詳しくは過去記事をご一読あれ☆

 

でね。
最近はさらにマニアな発酵ラバーが生まれてきておりまして、「自分で麹をつくりたい!」という物好きな人が結構います(僕も去年から素人向けの麹の手づくりワークショップをやっているのだけど、気づいたら900人近くに教えていました。すごいね汗)。

 

☆こんな感じの講座です☆

 

麹ってのは、ざっくり言うと「米や麦に麹菌というカビが生えてモコモコしたもの」なんだけど、これを手づくりするためには自家製酵母パンのように「スターター」がいるんですね。

 

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そのスターターこそが、今回のテーマである「種麹(たねこうじ)」なのさ。

以上、前置き終わり。

 

 

種麹=カビの胞子をパッケージングしたもの

 

それでは本題に入ろうか。
麹の手づくりの原理は単純で、

 

・蒸した米・麦に麹菌という発酵カビの胞子をくっつけて温める

 

ということなんだね。

穀物のうえに、花咲かじいさんのように白っぽい粉=胞子を「お米に花を咲かせましょう〜」とか言いながらかけてしばらく温めると、穀物のなかのデンプンやタンパク質をエサにして、麹菌が繁殖しモコモコのブロックになる。

 

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…とするとだよ。

麹を手づくりするためには、「麹菌のカビの胞子」をゲットする必要がある。パン種をつくるためのドライイーストをイメージしてもらうとわかりやすいと思うんだけど。

 

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©農文協「おうちでかんたん こうじづくり」

 

この「麹菌のカビの胞子をパッケージしたもの」がつまり種麹。ビジュアルは「小分けにした小麦粉」みたいなもので、実はamazonの通販でも買えたりする。

 

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↑写真のような感じで胞子をお米に振りかける

 

「もやし屋」と呼ばれる種麹メーカーは全国に6社あり、その歴史はなんと1,000年以上。漫画「もやしもん」や映画「千年の一滴 だし しょうゆ」でご存知の人もいるかと思います。

 

(余談ですけど、カビの胞子を1,000年以上も売り続けている会社がいくつもあるわけだから、ほんと日本ってのはヘンな国だよね)

 

家庭で麹を手づくりする場合、通常はこの種麹をスターターにする。
プロがつくっているから品質も安定しているし、僕のワークショップでもこの方法を標準にしている。
しかし!
恐るべしローカルの郷土文化。実は日本各地に「種麹すら自分でDIYする」という近年のメーカーズムーブメント的にハードコアな手づくり文化があるのだよ。

 

 

ヨーグルト式自家製麹の地下文化

 

こないだ仕事で秋田に行っていた時に、何気なく入った市場の一角で不思議な種麹を発見したのね。

 

普通、種麹と書いてあればそれは「ヤバそうなオーラの白い粉」なんだけど、秋田のソイツは、「通常の二倍くらいモッサモサになった麹を小分けにしたもの」だった。要は種麹と書いてあるのに、実際はすでにできあがった麹の完成品じゃねーか!ということなのね。

 

さて、これはいったいどのような事態なのであろうか。

 

というか、壇蜜さんとかGENKINGさんとか著名なタレントが登場しまくるアマノ食堂のようなポップなWEBメディアにおいて、こんなマニアックな話をこれ以上続けて良いのだろうか…。

 

さらに言えば、秋田のローカル市場の片隅で平日の午前中から売り子のおばあちゃんとお茶飲んで世間話に花を咲かせるような不審な仕事をしている息子を、実家の両親は心配していないだろうか(ま、言うまでもなく心配してるよね)。

 

話を戻すとだな。

 

市場のおばちゃんいわく、秋田では昔からヨーグルトのごとく「麹から麹をつくる」という手づくり文化があったらしい。

町で有名な麹名人がつくった麹を、スターターとして他のおばちゃんたちに分配していた文化が今でも継承されているということなんだね(ちなみに胞子からつくるのを「種麹法」、完成品の麹からつくるのを「とも麹法」と言います)。

 

ここから先は公的な資料がないので想像になるけども。かつて田舎ではいわゆる種麹もなかなか手に入らなかったので、稀にゲットできた種麹を使って村で一番の名人が麹をつくり、それを「ニアリー種麹」として村中に分配していたのだろうね。

 

ほら、娘が実家から独立する時にお母さんからぬか床を分けてもらったりするのと同じような話だと思うんだけど。

 

どんな田舎でも速攻で商品がデリバーされる現代社会ではイメージしにくいが、モノを運ぶのが難しかった時代では女の人たちが助け合いながら生活に必要なものを工面していた。そしてそこにはきっと「◯◯名人」と、その名人の「◯◯フォロワー」がいて、リスペクトと多少の嫉妬心をベースにコミュニティを形成していたのでしょうな。

 

…って、インスタの仕組みと同じじゃねーか!

 

 

それではごきげんよう。

 

【追記】

なお、町から隔絶された山間地ではごくまれに「空中から麹菌を降ろしてくる魔女」などによるワイルド手づくり麹の文化が残っていることもあります。その話はまたいつか。