小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第16回】日本人がボジョレー・ヌーヴォーを好きな理由と、ボジョレー女子会をやらないほうがいい理由

小倉ヒラクの発酵トラベルノート
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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

えっ、僕ですか?

味噌汁も飲んでますが、ワインもよく飲んでるよ。

 

今回はアマノ食堂編集部からのリクエストにお答えして、11月に解禁される「ボジョレー・ヌーヴォー」について。

 

 

11月になるとコンビニの窓にも「ボジョレー解禁しました!」なんて書かれるほどの「季節の風物詩」ですが、実際のとこ何なの?美味しいの?ワタシの人生に関係あるの?という素朴なギモンに答えつつ、僕なりに思うことを皆さまにお伝えしようじゃないか。

 

 

***

 

ボジョレー地方産の出来たてワイン=ボジョレー・ヌーヴォー

まずボジョレー・ヌーヴォーの定義について。これは、

 

「フランスのワイン銘醸地ブルゴーニュのボジョレー地方で生産された、その年出来たての新酒」

 

のことで、ワイン好き向けにさらなるスペック詳細を補足すると、

 

「ガメ(Gamay)という品種のブドウで仕込んだ、飲みくち軽めの赤ワイン」

 

となります。つまり、ボジョレー産の新酒ワインのことね(ヌーヴォーはフランス語で「新しい」という意味)。

 

ボジョレー・ヌーヴォーの起源は1950年代はじめ、フランス政府が定めた新酒解禁日よりもはやく「試飲用」としてフライングお披露目されたボジョレー産ワイン。その年のブドウの出来を見るために業界関係者が飲んでいたものがメジャー化したものです。

 

でね。

 

このボジョレー・ヌーヴォーがその産地フランスにおいてスペシャルな理由なんだけど、だいたいこの3つくらいなんじゃないかしらね。

 

1年でいっとう最初に解禁されるワインである

産地特定ワインは高級=美味い!」というイメージがある

寝かさずに飲む軽めの赤ワインのブランドは珍しい

 

1番目はすでに説明したので、2番目と3番目を解説しましょう。

 

 

【産地特定ワイン】

フランスにおいて、ワインのオフィシャル格付けというものがあります。そのなかで最も格が高いのがAOC(=Appellation d’Origine Contrôlée:アペラシオン・ドリジヌ・コントロレと読みます。フランス語発音は難しい!)と呼ばれる認証。「同一の原産地のブドウでピュアに醸されたワイン」を意味します。ボジョレー・ヌーヴォーの場合は「ブルゴーニュ地方ローヌ県北部ボジョレー地区で取れたブドウでつくったよ」という証明です。

 

余談ですが、フランスの2大ワイン生産地のひとつボルドーでは最高でも「村名」までしか表示しないのに対し、ブルゴーニュでは「畑名」まで認証に含める超絶レアワインが存在します(ロマネ・コンティとか)。

 

で、このAOCの認証を取ったワインってのはそれだけで「由緒正しい高級酒」というイメージがあります(ちなみに複数の産地のブドウでつくったワインは格が低いとされます。そのなかにも美味しいワインもあるんだけどね)。

 

【軽めの赤ワインは珍しい】

フランスに一定期間滞在したことある人はご存知の通り、フランス料理は「めっちゃ重い肉料理」をよく食べる。小さいステーキをオーダーしても200gぐらいの肉塊が普通に出てきます。しかもその肉塊に、これまたコッテリしたソースとかチーズとかが添えられてくる。こういう料理に合わせるワインは「フルボディの赤」なんですね。ワインのコクと渋みで肉のコッテリ感を中和するわけです。

 

なので、AOCの赤ワインのほとんどの銘柄はミディアム〜フルボディの飲みくち。そのなかで、ボジョレー・ヌーヴォーは珍しい「ライトボディの赤」。

 

「めちゃくちゃ濃い肉食系EXILEファミリーのなかで1人だけ星野源」みたいな意外性があるわけですよ、奥さん。

 

 

***

 

『ボジョレー・ヌーヴォー=星野源』という仮説

「さっきからフランスの文化論をエラそうに。チミは何様のつもりかね?」

 

いや実は不肖ヒラク、20歳前半の時フランスに住んでたんすよ(←なんと絵画の勉強をしていたのだが、その腕前はこの連載のイラストを見ればわかる涙)。

 

それでだな。

 

当時を思い出してみると、ワイン好きの友だちたちはボジョレー・ヌーヴォーをあんまり好きじゃなかったんだよね。

 

「アレは素人向けのお祭りだからね〜」と、11月になってもしれっとコート・デュ・ローヌ(ローヌ河沿いの産地)の赤ワインとか飲んでいたな(ちなみに彼/彼女らはボルドーのワインも「美味しいヤツは大金出さないと買えないから無理」とスルーしておりました)。

 

確かに正統フレンチグルメにはボジョレー・ヌーヴォーの赤ワインは軽すぎるかもしれない。コク(グルーブ感)も物足りなく、味(顔)の立体感もない。

 

そんな星野源…じゃなくてボジョレー・ヌーヴォーですが、僕は悪くないと思うんだよね。特に僕たち日本人にとって。

 

実はボジョレー・ヌーヴォーの世界一の輸出先は日本。きっかけはバブルの時の舶来礼賛ブームでしたが、バブルがはじけたその後もバリバリ輸入しまくっていまや文化として定着しています。

 

これはつまり「日本人はブランド好きの素人だ」ということではなく、「日本人にとってボジョレー・ヌーヴォーは飲みやすい」という証だと思うのさ。

 

 

***

 

日本人がボジョレー・ヌーヴォーを好きな理由

肉文化がフランスほどに根付いていない日本では、お肉の食べかたが「軽い」。

 

和食における肉じゃがとか生姜焼き、オードブルでおなじみの生ハムやサラミなどは映画『GANTZ』でバンバン消えてゆく登場人物の命程度の軽さであり、ガッツリ焼肉ですらフレンチで出てくる骨付き羊肉のローストに比べたら、スラムダンクにおける牧と宮城リョータぐらいのウェイトの違いがあります。

 

日本人の「軽い肉食」に合わせるのに、軽い飲みくち、爽やかで適度な酸味、フルーツっぽい香りのボジョレー・ヌーヴォーはうってつけなわけです。

 

和食割烹のフルコースで食べるならば、前半戦の鶏肉のタタキやフルーツを使った季節の野菜のサラダにはボジョレー・ヌーヴォーの赤ワイン、後半戦の魚介の刺し身や鍋にはシャブリの白ワインあたりをビシっとキメたいもんだ。

 

ちなみに。ある程度ボディのしっかりした赤ワインは常温で飲むのが一般的ですが、ボジョレー・ヌーヴォーは冷蔵庫でキリッと冷やしたほうが“良さ”がわかります。その良さってのは何かというと、発酵したての「ブドウの果汁のみずみずしさ」。

 

そう。ボジョレー・ヌーヴォーってのはつまり「オトナのグレープジュース」なのだよ。

 

 

***

 

ボジョレー女子会をやらないほうがいい理由

 

軽めのイタリアンや和食の肉料理に合う赤ワイン、しかもイメージもオシャレ!となると「超ラブリ〜!じゃあボジョレー女子会やっちゃおっ!」と色めき立つ女子(←特にこの連載を好んで読んでるようなこじらせ女子)たちよ、

 

早まるでないッ…!

 

 

『東京タラレバ娘』作者の東村アキコ先生が説くように、女子会にオシャレさを求めてもムダだ。

 

最初の乾杯から数分後には

 

「最近出会いがなくて…」

「ていうか5年くらい出会いないかも…」

「10年前に別れた彼が忘れられない…」

 

という、20年物のサンテミリオンもビックリの超重量級ヴィンテージトークが繰り広げられることになるわけなので、ゆるふわ系ファッションのかわりにドテラを羽織って熱燗とシブい酒の肴を囲む「ユーフォリア(多幸感ありすぎ)飲み」で元気を出してもらいたい。

 

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内輪にとじこもってヴィンテージになるにはまだ早い。ボジョレー・ヌーヴォーのごとく軽やかかつフレッシュに弾けるのだ、タラレバ娘たちよ…!

 

 

それではごきげんよう。