小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第20回】新年は甘く、品良く、あっさりと「白味噌」のように迎えよう。

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。

味噌汁飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

前回のエントリーがかなりディープな問題作だったので、2016年最後のコラムはテーマ的にも内容的にもあっさりで締めたいと思います。

 

【前回の記事】
【第19回】一緒のほうが幸せなのに、あえて分けるというエロス。鯛茶漬けは最強の『逃げ恥飯』だ!

 

 

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西のお雑煮で使われる、あっさり上品な白味噌

 

お味噌と聞いて想像するのは「熟成した風味の赤味噌」。普段飲むお味噌汁にも塩味と旨味の効いた熟成味噌を使うことが多いと思います。

 

いっぽう熟成の浅く、甘味の強い白味噌。その存在を知っていても「使いどころがよくわからん!」という人も結構いるんじゃないでしょうか。

 

甘い白味噌を使ったレシピで有名なのは、関西〜東海地方で新年を祝うお雑煮。日本のだいたいの地方では、お雑煮は出汁と塩で味付けする「すまし汁スタイル」ですが、西は「白(西京)味噌スタイル」。
最初にこの「西のお雑煮」を食べた時に「甘っ!なんだコレ?」とビックリしたものですが、先入観を払拭してちゃんと味わうと、甘味のファーストインプレッションの奥に、おモチの優しい触感や大根や人参などの根菜類の穏やかな旨味を発見することができる。

 

「西のお雑煮」はまことに奥ゆかしく上品で、ラブリーなまでにスイートなのであるよ(なんか90年代のオザケンのような言い回しになってしまった)。

 

 

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白味噌ベースの味噌汁もなかなかイケる

 

白味噌でつくる味噌汁もぜんっぜん悪くない。
むしろ「ツウな味噌汁」としてドヤ顔できる隠れた実力を持っている。

 

詳しくは過去のコラムでのレシピを読んで欲しい。

【手前みそTIMES】恋を“愛”に変える!出汁力トレーニング味噌汁

 

白味噌の特徴は「自己主張がそんなに強くないが、味自体はしっかりある」という点にある。特に麹(こうじ)に凝縮された「上品な甘味」と「病みつきになる旨味」がしっかり残っているので、和食特有の「うまみフレーバー」にアクセルをかけるのに最適なのであるよ。

 

白味噌ベースの味噌汁でぜひ挑戦してほしいのが「味噌ではなくダシを主役にする味わい」。特に手間がかかるので普段は使わない「本格かつおダシ」や「どんこ(椎茸)ダシ」などで贅沢かつ濃厚に味をつけ、そのベースの上にさりげなく白味噌の甘味と旨味を乗せていく…という高等テクを身に着け「平安貴族的な高貴さ」を醸し出して欲しいものよ。
「彼氏や子どもが味噌汁ニガテで困ってます」という貴女は、ぜひ白味噌ベースの味噌汁をプレゼンしてほしい。

 

というのもだな。子どもやB級グルメやファストフード好きな男子は、複雑な味を感知するほど味覚が発達していない。熟成味噌の深いコクや苦味に「よくわからん!」となる事がよくある。

 

しかしだ。白味噌特有の「優しい甘さ」は全人類共通のフェイバリットであり、細胞レベルでウェルカムな無敵の味覚。そこにダシの旨味を組み合わせたら、どんな舌の持ち主でも屈服せざるを得ない。

 

一見、地味だが、白味噌の魅力はなかなかに深淵なのであるよ。

 

 

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白味噌は普通の味噌とどう違う?

 
ここで技術的な観点から「白味噌とはそもそも何か」を掘り下げてみたい。

 

普通の味噌(信州味噌系の熟成米味噌)と白味噌の違いは、大別すると

 

・熟成期間が短い

・麹(こうじ)の量がめちゃ多い

・塩が少ない

 

この3点だ。
白味噌の特質を最もピュアにあらわした「西京味噌」で言えば、

・数日〜2週間しか発酵させない

・通常の味噌の2〜3倍も麹を入れて仕込む

・通常の味噌の1/2くらいの塩しか入れない

 

という、一般的な味噌の概念をハードコアに覆す製法なのだ。(余談ですが僕も自分のラボで西京味噌を再現してみたのだけど、最速40時間くらいで味噌になってしまった。早すぎ…!)

 

発酵食品好きの読者ならすでにお気づきかもしれないが、白味噌は製法的に味噌というよりは甘酒に近い。あるいは「甘味強めの塩麹」と言ってもいい。

 

味噌は長く熟成させるにつれ、麹の甘味が、味噌特有のコクや酸味に取って代わられていく(乳酸菌や酵母菌が麹の糖分を食べて独特の香りと風味をつくる)。

 

しかし、白味噌は発酵菌が糖分を食べる前に熟成を終えてしまうため、当然麹の甘味が強く残っている。

 

なお、熟成が進むのと同時に、大豆のタンパク質が茶色く変色していく(ステーキのお肉が焦げて美味しくなるのと同じ原理)。半年以上熟成させると、大豆のベージュ色は濃い飴色に変わる(だから赤味噌と言うんだね)。

 

普通の味噌とくらべて麹が多くて塩分が低いのは、はやく発酵させるため。

 

塩が少ないと発酵菌(主に麹菌)の働きが活発になる。普通の味噌の2倍以上大量投下した麹のなかで、活発化した菌が大暴れするので、高速で発酵が進む。するとめでたく「甘酒フレーバーを色濃く残したあっさり味噌」をつくることができる。熟成が速い分だけ、大豆と麹のベージュ色がキープされるから、「白味噌」と言うわけだ。

 

 

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白味噌は洋食やお菓子にも使える

 

塩麹を万能調味料としてイタリアンやフレンチに使うレシピも今や一般的になりました。それと同じ発想でいくと、白味噌もいわゆるトラディショナルな和食以外にも応用できまくってしまう。

 

例えば、オリーブオイルやバターで伸ばしてパテにしてバゲットに塗ったりすると「意外とワインに合うじゃねえか」とニヤリ感のあるオードブルになる。
シチューの味のベースにもピッタリだし、卵とジャガイモなんかのグラタンのメインの味付けにしてもバッチリ合う。

 

さらに。甘い白味噌(とりわけ西京味噌)はお菓子づくりにまで使える。柏餅の「味噌あん」など、和菓子には伝統的に白味噌が使われてきたが、僕の講座に参加してくれたマクロビの先生たちは、白味噌を練り込んだクッキーやムースをなど「砂糖なしスイーツ」を楽しそうにつくっていた。

 

甘酒以上、味噌未満。甘さのある塩麹。
白味噌はその微妙なポジショニングゆえに、使いこなしたら料理の幅が広がる素晴らしい調味料だ。

 

 

…と書いてみたら、2017年は白味噌がトレンドになる気がしてきた。

 

とりあえず新年祝いのお雑煮を白味噌でキメるところから始めよっと。

 

それでは良いお年を。