小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第25回】ジントニックを飲めば、バーの哲学がわかる?奥深きシンプルカクテルの真髄

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?

発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

旅先でふらりと入ったバーでスコッチ・ウィスキーを嗜んでいたときのこと。なんとなくさっぱりしたものが飲みたくなったのでビールを注文しようとしたら、バーのマスターがこんな提案をしてくれました。

 

「ジントニック、飲んでみませんか?」

 

普段カクテル(というか甘いお酒全般)を飲まないヒラクですが、マスターの何やら自信ありげな顔を信じてジントニックを飲んでみたところ、これが実に美味しかった。それ以来、折々にバーでジントニックを飲むようになったのですが、このシンプル極まりない定番カクテル、実はかなり哲学的なお酒なのですね。

 

ということで、今日はバーのカウンター越しに話すようなテンションでお酒の話をしてみようじゃないか。

 

***

 

ジントニックとはそもそもどんなお酒?

 

ジントニックは、数あるカクテルの中でもマティーニなどと並んで超定番のレシピ。チェーン店の居酒屋さんから高級バーまでどこにでも置いてあります。

 

レシピもものすごくシンプル。

 

氷の入ったグラスにジンにトニックウォーターを混ぜ、そこにライム(あるいはレモン)を絞る。これだけ。

 

これだけなんだけど、ここから広大な宇宙が広がるのさ。

 

まずジン。

 

これは麦やじゃがいもを醸(かも)したもろみを蒸留したスピリッツ。蒸留するときに、杜松(ねず)の実を中心にオレンジピールやコリアンダーなど、様々な果実や香草類で香り付けします。

 

一口にジンと言っても、実にバリエーションが豊富。辛口から甘口、ハーブっぽい香りから柑橘のような香りまで、様々な風味のブランドがある。量販店でひと瓶1,000円くらいで売っているものから5,000円を超えるプレミアム銘柄までクラスも色々あるのだね。美味しいジントニックをつくるときは、冷凍庫に入れてキンキンに冷やしたものを使うのが基本(アルコール度数が高いから凍らない)。

 

次にトニックウォーター。

 

これは炭酸水に柑橘系の果実の皮や香草類、若干の甘みを添加したもの。香り付けの方法論がジンと似ているのでカクテルにすると相性がいいんだね。

 

でね。このトニックウォーターも実は何種類かバリエーションがある。比較的スタンダードなのは炭酸味と香りのバランスがとれたなんだけど、より香味を強調したものや、より甘みを強調したもの、より苦味を強調したものなどそれぞれに特徴があり、最近はジンの本場ヨーロッパ仕様のプレミアム銘柄(炭酸や甘みが抑えられていてハーブ感や苦味が強い)が選べる店も。悩ましい…!

 

さらに仕上げの酸味にライムを使うのか、それとも青いレモンを使うのかという選択肢もある。標準では1/4に切ったものを絞ってグラスの中に残しますが、目指す宇宙によってこのあしらいが変わってきます。

 

氷とグラスも大事な構成要素。

 

普通は割りと大ぶりなロンググラスで出てくるのだけど、ウィスキーのロックグラスのような太めのグラスで出すところもある。

 

氷もウィスキーのロックのような大きなものから、細かく砕いたものまでバーテンダーの趣味嗜好が反映されるわけです。

 

ジントニックはシンプルな構成要素を組み合わせることで、無限の宇宙をつくり出す、まことに創造的な酒なのであるよ。

 

***

 

ジントニックのデザインの方法論

 

材料の組み合わせを決めるためには、まず「何のための酒なのか」というグランドデザインを決める必要がある。

 

ジントニックといえば「最初の一杯」あるいは「ビギナーが気軽に飲める酒」という位置づけであることが多いのだが、実はそれは広大な宇宙の一端でしかない。

 

僕がマスターにすすめられて最初に飲んだジントニックは「酒好きが気持ちをリフレッシュさせるための酒」としてデザインされていました。

 

辛口のジンに辛口のトニックを合わせ、ライムを浅めに絞り、絞り終わった果実はグラスに残さない。そしてグラスはや細めのロンググラスで、氷は大きめ。

 

このデザインには、標準のジントニックよりも「炭酸味がシャープで甘みが弱く、奥行きのある香りと苦味を前に押し出す」という狙いが込められています。

 

しかもグラスの口が狭めで氷が大きいので炭酸が飛びにくいので、最初の一杯としてグビグビ飲むのではなく、ある程度時間をかけて楽しめる。ライムをグラスの中に残すと、時間が経つうちに皮の渋みが液体に移ってしまうので、あえてグラスから取り去ってしまう。

 

つまり、よく考えられたオトナのカクテルだったのですよ。

 

さらにオトナなスタイルのジントニックもあります。香りの強いどっしりしたジンを多めに入れ、炭酸味を抑えた淡白なトニックを合わせ、ライムを強めに絞り、ウィスキーグラスのように短めのグラスに入れたジントニックは、「最初の一杯」でも「飲み途中の箸休め」でもなく、「じっくり味わうメインの一杯」として機能します。炭酸味を抑え、ほろ苦く、コクがあり、香りをじっくり愛でる。

 

「今夜はジントニックで、キメる…!」

 

そんなデザインすらも可能なのですよ。

 

もちろん、スッキリ味のジンに甘みと炭酸の強いトニックを合わせ、ライムをグラスに残してフレッシュな香りを残した「サイダーみたいなカクテル」を夏の暑い時期にプールサイドで飲むのもまた、爽やかな風情があるのだと思われます(ヒラクはそんなお洒落なことやったことないけどね)。

 

僕が体験したケースのように、本当にこだわったバーではお客さんの飲み方を見てレシピを調整するところも多いようです。

 

シンプルがゆえに、ジントニックはそのバーの哲学、そして飲む人の嗜みの宇宙を反映するのですね。

 

 

…とかいう話を聞いたらほら、今すぐ飲みたくなっちゃったでしょ。

 

YOU、今宵はバーでジントニック飲んじゃいなYO!

 

 

それではごきげんよう。