夏生さえりの「ティファニーで朝食を食べられなかった私たち」

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【第24回】飲み会で一番気になる彼

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夏生さえり
ライター
出版社勤務を経て、Web業界へ。人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。 著書に『今日は、自分を甘やかす いつもの毎日をちょっと愛せるようになる48のコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン )はじめ、本連載に書き下ろしを加えたエッセイ集『口説き文句は決めている 』(クラーケン)が2017年8月9日発売予定。

「今の彼氏とは、大人数で集まる飲み会で出会ったんですけど……!」

 

先日、そんな話を聞いていた。大学の卒業生たちが集まる大規模飲み会で、たまたま隣になった人と盛り上がって一気に距離が縮まり、付き合うことになったのだという。

 

私自身は知らない人が大勢集まる飲み会はあまり得意なほうではない。

 

人見知りしないものの、知らない人たちの中で注目を浴びながら声を大きくして話すほど話したいこともないし、新しい人と話そう!という開拓フロンティア精神もないので、座っている場所から一歩も動かずに終わってしまうこともある。だから、そんな飲み会での出会いがあるなんて羨ましい。

 

この忘年会シーズンに、出会って恋をする人もきっといるのだろう。もしわたしが“飲み会”で出会うなら、こういう出会い方がいい。

 

 

***

 

「明日の飲み会、来るよね?」

 

土壇場で断ろうと思っていた矢先に、友人からメールがきて動揺する。同じような業種の人たちが集まるというその飲み会では、知っている人は数人。あとは、友人の友人たちが来る総勢20名程度の飲み会なのだという。

 

めんどくさいな……。

 

断るほどの勇気もなく理由もなく、飲み会当日を迎える。

 

なんとなく行くことになった割には早めに到着してしまい、個室の席の真ん中に座る羽目になってしまう。端っこに座ってやり過ごそうと思っていたのに、しまった……。全てにおいて後ろ向きであるにもかかわらず、飲み会はぬるっとスタートしていく。

 

隣にいる人や正面にいる人と「何のお仕事されているんですか?」とか「誰の友達ですか?」とか、ありきたりでつまらない会話を繰り広げる。やっぱり来なきゃよかったかな。緊急のメールが届いて忙しいというふりをして、携帯をぽちぽちと触っていると、個室のドアがサッと開いた。

 

グレーのニットにジーンズという、実に“普通”で特徴のない格好をした背が高い男の子。

 

遅れてきたくせに派手な登場をせず、そして誰からも「やっと来たかー!!」などと大げさな歓迎もされず。彼は一人でコートを脱いで、あぐらをかいて座り、隣にいる友人らしき男に「よ、佐藤」と声をかけられ「よっ」と片手で小さく挨拶をし返していた。

 

 

な、なんだか気になる……!

 

人生において、何度かこういう「なんだか気になる」という出会いはちょこちょこある。別にタイプなわけじゃない。イケメンなわけでもない。実に“普通”なのに、何か気にかかる佇まい。

 

そのひっかかりの正体を、“一目惚れ”というには大げさで、かといって“気にならない”といえば嘘になる。今回もこの「なんだか気になる」は作動し、わたしはこの作動が誤作動ではないかを慎重に探る。

 

ゆるくパーマのかかった前髪をくしゃくしゃっと解くのが彼の癖なようで、登場して座るまでに2回ほどくしゃくしゃっと前髪を解くのが、やたらと印象に残った。派手じゃなく、目立ちたがり屋ではないところにも好感が持てる。

 

唐揚げをゆっくり食べるふりをしながら、何度も佐藤くんを盗み見る。何が気になるんだろう? あの、すらっとした指? それとも、真顔なのに口角があがっているせいでにこっとしているように見えるあの顔?それとも……。

 

「はじめまして〜!!!」

 

ぬっと人が現れハッと現実に戻ると、目の前にお酒を持った男性が「隣座ってもいいですか!?」などと話しかけてきている。(いや、だめです)ということはもちろんできず、「せっかくなんで皆さんとお話したくてー!」という明らかに苦手なタイプの男と話す羽目になってしまう。いま、佐藤くんへの恋の作動チェックをしているところなんですけど…。

 

「趣味はなんですかー!?」

 

絶対に、この人とは趣味が合わない気がする。後ろ向きが再び顔をのぞかせ、やや面倒に思いながらも「映画が好きなんです。特に、ミュージカル映画が」と答えると、目を輝かせ「へー! どの監督が好き?」などと言い出す。

 

「俺、映画見るとつい監督見ちゃう癖あってさ。この前の○○監督の映画みた? あ、○○監督っていうのはさぁ……」

 

……あぁ、つまんないな。

 

ふむふむと聞いているふりをしながら、視線の斜め先にいる佐藤くんを再び盗み見る。意識をそちらに集中させると、どうやら彼のテーブルは“恋”の話で盛り上がっているようだった。

 

(そういえば、彼女いるのかな?)

 

この年にもなれば、素敵な人には恋人がいるのが世の常だ。好きになったあとでがっかりしたくない……と思っていると、誰かが「佐藤くんは、彼女いんの?」と聞く声がする。ナイス! よくぞ聞いてくれた! どうなのよ、佐藤!彼女いるの!? ……耳をすませど、肝心の彼の回答が聞こえない。声が小さすぎるのだ。

 

隣の男はいつまでもほにゃらら監督のほにゃららがすごかった話をしているが、わたしの興味は佐藤にしかない。会話よ…聞こえてこい……!

 

「まじかー!いつからいないの?」

 

……佐藤、彼女なし! 聞こえますか世界のみなさん! 佐藤、彼女、なしですよ!!

 

心の中で小躍りしていると、知識ひけらかし男が「おーい、聞いてる? 酔った?」などと目の前で手をぶんぶんとふり、「映画以外では何が好きなの?」とさらに話を発展させてきた。ここまで興味なさそうにしている女に、こんなにも話せるその精神力を分けて欲しいほどだ。しょうがない、彼との話に付き合うしかない。

 

 

その後かなりの時間が経ち、なんとなく近くの人と会話をしているうちに飲み会は終わりの時刻を迎えてしまう。一度も、佐藤くんと話すことはできなかった。

 

いくじなし。自分でも自分に幻滅してしまう。

 

解散後に送られてきた集合写真を拡大してみると、端っこの方でピースの途中で写真を撮られている佐藤くんがいた。ピースの途中で撮られているその様子が、まさに彼を体現しているような気がしてぐっとくる。この気持ち、恋に変わるかもしれなかったのに。

 

やっぱりトイレに行った時に、隣に座ってみればよかった……。それで「はじめまして〜」と声をかければよかった。心の中で何度も、飲み会の映像をリプレイし、「たられば」を繰り返す。あそこでわたしが声をかけていれば。あそこで話しかけることができたら。

 

Young women are using a smart phone on the bed

 

布団の中で、今日の参加者一覧をFacebookで見ながら“佐藤”を探す。

 

驚くことに“佐藤”は3人もいたが、1人は海で撮った上半身裸の男だったし、もう1人はホストのような金髪だった。もちろんこの2人の佐藤ではない。飼っている犬をアイコンにしている佐藤こそが、わたしの探している佐藤だ。

 

友達申請を送ろうか迷って迷って、公開されているわずかな情報を読み漁った。誕生日は7月。血液型はO型。山形生まれ。

 

明日には友達申請を送ってみようか。そんなぼんやりとした気持ちで眠りにつく。

 

と、次の日。

 

ピコン!と携帯がなり、みると“佐藤”からのメッセージが届いていた。

 

飛び上がるような気持ちで慌てて読む。

 

「昨日はありがとうございました!楽しかったですね」

 

……なんだ。社交辞令か。意外と律儀な人なんだな。そんな感じかぁ。あぁ、大体の恋の予感って、勘違いで終わるものよね。

 

「なんだか気になる」が「気になる!」に変わって、「ああ!恋!」に変わっていくようなことって過去何度あったかしら。そんなもんよね。あの「気になる」は誤作動だったということで。

 

はい神様、終了です。

この恋の予感、終わりです。

 

一人勝手に強制終了させようとするアラサーの悪い癖をたしなめるように、彼から続けてメッセージが届く。

 

「ミュージカル映画の話しているのが少しだけ聞こえていて。本当は話したかったです」

 

……!!! どうしよう。なんて返そう。慌てながらも、思わず「こちらこそ、ありがとうございました! えっ、聞こえてたんですね!」なんて当たり障りのないことを送ってしまう。

 

だめ、もう一言くらい言わないと。せっかく、連絡をくれたんだから。いつもは出ない勇気を振り絞り、心の声を素直に文字に変える。

 

「私も、本当はお話ししたかったです」

 

神様、恋の予感、終了じゃなかったです。飲み会って、最高ですね。世界よ、ご都合主義だと笑ってくれて構わない。微笑みながら、スケジュール帳に恋の予感を書きつける。1週間後の日曜日、◎マークと共に嬉しさが溢れた文字で、しっかりと。

 

“佐藤くんと、ランチ”

 

***

 

こういうやつ、こういうやつ、こういうやつ〜!!

 

一気に距離が縮まるような恋もいいけれど、じわじわと気になりながらもなかなか前に進めないような出会いも最高としか言いようがない。

 

しかも、ランチ! ランチから始まる恋! 一説には、ランチから始める恋こそ嘘っぽいという話もあるが、いいじゃないそういう順序を踏んでいる“丁寧な恋”って。飲み会での出会いだからこそ、そういうのがいい。ああ、憧れる憧れる!……と言いながら、先々のスケジュールを確認したが、わたしにはそんな飲み会の予定もなければランチの予定もない。我が希望、ここで断たれり。

 

せっかくの忘年会シーズン。

そんな出会いが、どこかの誰かには訪れますように。

 

 

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