夏生さえりの「ティファニーで朝食を食べられなかった私たち」

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【第12回】冬こそ食べたい「しあわせの味」

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夏生さえり
ライター
ライター。出版社勤務を経て、Web業界へ。人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。

大人になって、「しあわせだな」と思う瞬間が増えた。

 

もし「わたしは逆にしあわせを感じにくくなっている」と思う人がいるなら、それはしあわせに麻痺しているのではないかと思う。

 

幼い頃と比べて、自由度はぐんと高まった。好きなお菓子は親にねだらなくても買えるし、好きなご飯を食べられるお金も昔よりはある。好きな時に出かけられるし、好きな人と一緒にいられる。

 

しあわせなことが積み重なりすぎて当たり前になって。些細な「しあわせ」を見失っているのだと思う。

 

ちょっといい話風にはじめてみたけれど、このコラムは「食と恋」をテーマにしたもの。今回は身近にある「冬の贅沢な食」について、ちょっと見つめ直したい。

 

 

***

 

「初雪が降ったじゃないですか」

 

先日、コラムの編集者さんから連絡がきた。

 

「初雪の寒さに絡めて、食と恋の話ってどうですか?」

 

初雪と…、食と恋…。

「むずかしいですよぉ」と言おうとして、ハッと思い浮かんだ。

 

冬、初雪が降るような寒い日だからこそ「贅沢」に感じられる食がある。

 

アイス、だ。

 

 

寒い時期に寒いものを? なんて一昔前には言われたかもしれないけれど、最近はそういうことをいう人も減った。コンビニのアイスゾーンには“冬限定商品”が多く並んでいる。

 

よく売れる理由はおそらく簡単で、昔よりも冬の室内があたたかくて快適だからだろう。夏のうだるような暑さでは冷たい炭酸とかシャーベットとか、そういう爽やかなものが欲しくなるから、まったりとしたアイスは冬にこそ食べるべきじゃないか、という気さえする。それに寒いと「糖分」が欲しくなる。

 

アイスは冬にこそよく売れるらしいから、たぶん多くの人が「しあわせの味」「冬の贅沢」としてアイスを挙げることに共感してくれるような気がする。

 

 

***

 

もちろん一人で味わってもしあわせなのだけれど、一番贅沢だと思う頂き方はこれだ。

 

「ちょっと暑い」と言いたくなるほどにあたためた部屋で、部屋着を着て、前髪をアップにして年末年始の実家さながらリラックスモードになる。化粧はもちろん落としていて、張り付いたような笑顔はすべて取り払う。

 

彼と一緒にストーブの前に座って「ちょっと暑い」と腕まくりしていると、窓の外に雪がちらつきはじめる。

 

「わ、雪だよ、見て」「うわ、寒そう」とふたりで話し、その直後にいたずらな顔でこう持ちかけるのだ。

 

「ね、アイス食べよっか」

 

共犯者のような顔をしてふたりで頷いて、冷凍庫からアイスを取り出す。

 

理想は、クッキーアンドクリーム味。まろやかで、甘くて、ほろにがくて。冬に食べるのにちょうどいい“重み”があると思うから。

 

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もう一度ストーブの前に座って、ブランケットを膝にかけて、アイスを食べる。

 

「…甘い」

「ね」

「…冷たい」

「ね」

「…おいしい」

「ね」

 

と、何にもならない会話を交わし、目だけで微笑みあってアイスよりも甘ったるい空気を作る。

 

寒い日にすっぴん姿で、彼とストーブの前で食べるクッキーアンドクリーム。たったそれだけ。たったそれだけあれば、至極贅沢でしあわせだと思う。

 

 

***

 

寒い時期にはあたたかなものを、暑い時期にはつめたいものを、という人間の欲求に相反するものを摂取しているときのあの感覚は、“贅沢”以外の表現の仕方ができない。

 

冬のアイスは、しあわせの味がする。特別ではないけれど、普段の生活を少しだけ甘いものにしてくれるような。

 

今日も木枯らしが強く吹く、寒い日。

 

 

あとでアイスを買いに行ってしあわせの味であたたまろうと思う。