夏生さえりの「ティファニーで朝食を食べられなかった私たち」

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【第17回】ピクニックデートをしたことがない

Basket, sandwiches, plaid and juice in a blossoming garden. Vintage tender background. Romance, love, date
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夏生さえり
ライター
ライター。出版社勤務を経て、Web業界へ。人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。

4月は毎年、不思議なほどの早さで過ぎてしまう。

 

新しい環境や新しい友人たちに馴染もうともがいていると、いつのまにか5月になっているのだ。2月はわたしにとってあんなに長いのに、どうして4月はこうも短いのか。

 

特に「お花見」と言われるシーズンの過ぎ去る速さは尋常じゃない。「そろそろあったかくなってきたし、お花見を…」と思う頃にはすっかり桜は散っている。桜は腰の重い人をぜんぜん待ってくれない。

 

この季節になると、長い冬を越えてあたたかいお陽さまに久しぶりに会えた嬉しさで「ピクニック行きたいなぁ」と思うのだけれど、快適な気候も一瞬で過ぎ去ってしまう。「そろそろ行こうか…」と思う頃には日本は梅雨に入ろうとしているし、梅雨が終わったと思ったら蚊が大量発生して外でピクニックなんてしていられなくなる。

 

みんな、この季節を逃さずにちゃんとお花見をしたりピクニックに行ったりできているのだろうか。

 

わたしはもう26年間、春のピクニックデートに憧れているが、のろまな出不精なので一度も実行できたことがない。

 

そういえば、幼い頃に「長靴下のピッピ」という実写アニメをよく観ていた。その中で、赤毛の三つ編みをしたやんちゃなピッピが、気球に乗り込んで出かける回があって、彼女はその準備のためにサンドイッチを作って雑にバスケットに入れていた(と思う。うろ覚えだけどたしかサンドイッチ。他にもバナナとかを入れていた)。

 

その、“バスケット”の中に食べ物を入れて持ち歩く、という行為に子どもながらものすごく憧れた。蓋がついていて、なにかわくわくするものが収められているに違いないあの佇まい。そこから出てくるサンドイッチ。

 

実現することなく大人になってしまったがために、未だ「バスケットから出てくるサンドイッチ」に憧れている。それらを持っていって、芝生の上でピクニックをしたい。もちろん、大好きな恋人と一緒に。

 

理想のピクニックデートは、こうだ。

 

 

***

 

金曜の夜遅く、彼と「明日、何しようか」と話していると、彼が「あったかいからピクニックでもしよう」と提案してくる。

 

 

「え、ピクニック?」

 

“ピクニック”という単語が彼から出てきたことに少し笑ってしまうが、彼は「明日晴れだって言うし。行こうよ、ピクニック」と子どもみたいに嬉しそうにしている。

 

「ん、いいよ。じゃあ明日はピクニックで決まりね」と笑うと、「やったー」とか「わーい」とか彼が言い「レジャーシートあったっけ?」と率先してクローゼットをごそごそと漁り始める。

 

遠足さながらに喜ぶ彼を微笑ましく見ながら、「でも、今日はもう遅いし、寝よ?」と諭し、ふたりで一緒に布団に入って幸せな夢を見る。

 

 

朝になり、目がさめると隣に彼がいない。

 

おかしいな。いつも休みの日は起こすまで寝続けているのに…。いぶかしがっていると、キッチンから彼がひょいと顔を出し「あ、起きた?」と聞いてくる。休日らしい髪型(ワックスがついていない時の髪型の、休日らしさがわたしは大好き)で、「おいで、おいで」と促される。

 

「どうしたの、朝からキッチンにいるなんて」

「見て、これ」

 

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彼が指差すのは、ラップに巻かれる直前の、サンドイッチ。

 

といってもかなり簡易的な、焼いたパンにレタスやトマト、ハムとマヨネーズなどを挟んだもの(それこそがピッピが作っていたものにそっくりなのだ!)。ちょっとマヨネーズがはみ出ていて、彼の心の弾みが表れているような気がしてくすりと笑える。

 

「え、なにこれ作ったの?」

「そう!サンドイッチ、外で食べよ」

 

あまりに嬉しそうで、ご機嫌な彼。よく見ると、もう着替えているし(それも最近買ったばかりの白いシャツをおろしている)出かける気満々である。

 

思わずふふっと笑いながら、彼に「どうしたの、普段料理とか作らないくせに」と言うと、彼はほんのわずかにムッとした声で「ピクニックって言ったら、サンドイッチでしょー」などと言う。

 

「ピクニックに行きたいからお弁当を作ってくれ」と言ってくる男性には今まで出会ったことがあるが、「ピクニックといえばサンドイッチだから作ったよ!」と言う男性には出会ったことがない。控えめに言ってもかわいい。

 

 

「すぐ準備するね」

 

そう告げて、大慌てでワンピースを頭からすっぽりかぶり、人前に出ても恥ずかしくない程度の化粧を終えて(彼はそのナチュラルメイクでも気づかない)、わずか15分後には「行こう!」と手を取る。

 

赤と白のギンガムチェックのレジャーシートに、タンブラーに入ったあたたかな紅茶、そしてブランケットと、サンドイッチ。「ついでにこれも」と彼がフリスビーを入れる(これは去年彼が友人とBBQをする時に買ったものであって、決してこちらの私物ではない)。

 

それら大荷物を大きな紙袋に入れようとするのを制して、普段はインテリアと化しているバスケットを指差す。

 

「こういうのは、バスケットに入れないと」とちょっと誇らしげに提案して、彼も嬉しそうに「いいね」と言う。

 

 

「ピクニックという行為は見た目も重要だ」とか「やっぱりピクニックにはサンドイッチだ」とかそういうことを話しているうちに、あっというまに近所の公園に辿り着く(もちろん理想は、芝生)。

 

「おなかぺこぺこ」

「食べよう食べよう」

「いただきまーす」

 

とレジャーシートを広げて、ものの5分後にはサンドイッチを頬張る。

 

「わ、なにこれ、おいしい」

「でしょー。マスタード塗ってみました」

「…おいしい。さいこう」

 

そういって口にほんのわずかにマヨネーズをつけたもの同士で春らしいふわりとしたキスをする。普段は外でキスをしようとすると嫌がる彼も「えへへ」とかなんとか笑っている。やっぱりふたりとも、機嫌がいいのだ。春だし、あたたかいし。日差しのやわらかさは心までほぐす。

 

 

そのあとはふたりで寝転んで、ブランケットをおなかまでかけ、流れていく雲を見ながら会話する。

 

それはおそらく、未来を含んだしあわせな会話になる。

 

「いつか犬飼いたいね」

「あ、いいね。白い犬がいい」

「いいよ。名前は僕決めていい?」

「やだ、わたしだって考えたい」

「じゃあ決まらなかったらジャンケンで決めよう」

「いいよ。3回勝負でもいい?」

 

 

こんな会話をして、肌寒くなる前に帰宅する。手元には、サンドイッチと紅茶の分だけ軽くなったバスケットを持って。

 

 

***

 

 

あぁ、憧れる、憧れる、憧れる、憧れる!

 

絵に描いたようなピクニック。映画でしか見たことのない蓋つきのバスケット(を、外に持ち歩く光景)。そしてピクニックデートを面倒臭がるどころか「率先して準備しちゃうような恋人」。

 

どうしたって、そのピクニックに最適な季節を逃しがちなわたしだけど、いつか必ず春の陽気をすみずみまで味わえる大人になりたい。その日のために、大きめのレジャーシートとバスケットくらいは用意しておこう。

 

バスケットが埃をかぶる前に、ラブリーな恋人が現れますように。