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岡本仁さん×坂口修一郎さん|【第2回】みんなが「良き隣人」に。ローカルを拠点にした“カタチのない楽しみ”の作り方

岡本仁
  • 岡本仁
    岡本仁
    編集者。1954年、北海道生まれ。マガジンハウスにて『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの雑誌編集に携わった後、2009年にランドスケーププロダクツ入社。現在は同社の“カタチのないもの”担当。著書に『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。雑誌『暮しの手帖』や『& Premium』にてエッセイ連載中。
  • 坂口修一郎
    音楽家/プロデューサー。1971年、鹿児島生まれ。1993年に無国籍楽団ダブルフェイマスを結成し、フジロックフェスティバルなどの野外フェスにも参加。代官山UNITの立ち上げなどを経て2012年ランドスケーププロダクツに参加。同社では“カタチのない場づくり”を担当。音楽活動と並行して各地でイベントのプロデュースを手がけている。2010年から鹿児島での野外イベントGOOD NEIGHBORS JAMBOREEを主宰。
岡本仁

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「お客さん対談」。ゲストは、編集者・岡本仁さんと音楽家・坂口修一郎さんです。

岡山に通う理由とその魅力を伺った前回に続き、今回は、初めて岡山を訪れたときのエピソードと、長年の付き合いであるお2人の出会いについて教えてもらいました!

 

—日本各地を訪れるお2人ですが、初めて岡山を訪れた時に印象的だったことはありますか?

僕が初めて岡山に行ったのは『BRUTUS』の編集者をしていた頃。当時は、そんな特集で大丈夫!?と心配されるような尖った企画をひたすらつくってました(笑)。

岡本仁

初めての岡山は「BRUTUS」の取材

(岡本仁さん)

「大人の家出」ってタイトルで、自分の履歴書を書きかえて、身分を隠して地方の街で暮らすっていうとんでもない企画とか。そのために小豆島の旅館にライターを送り込んで、実際に旅館で働いているところを隠し撮りするっていう。

すごい!

その撮影のために選んだのが倉敷市の児島出身の写真家。最初から全員で旅館に乗り込むと嘘だってバレてしまうから、泊まり客になりすましてね。その前日にカメラマンの実家に行ったのが、僕にとって初めての岡山ですね。

それは忘れられないですね(笑)。

2度目は『クウネル』編集部にいた時に、内田百閒(うちだひゃっけん・小説家)さんのページをつくるために撮影に行った時かな。初めて行った時は児島に泊まったから街も全然観てなくて。ましてや、児島が倉敷市だってことも知らなかった。駅から撮影場所までタクシーで移動して、終わったらまた駅に戻って駅弁食べた記憶しかないし…。あくまで取材のために行ったもんだから、「せっかく岡山に来たんだから!」って気持ちになってなかったのかもしれないな〜。

岡本仁と坂口修一郎

忙しいツアーの合間に唯一立ち寄れた

より印象深い土地に

(坂口修一郎さん)

僕、最初に岡山に行ったきっかけはバンドのツアーでした。ミュージシャンの旅って本当に貧しいんですよ。貧しいっていうのは、地元の象徴的なものを観光する暇がないというか。現地に着いてリハーサルして…撤収するのは夜の9〜10時。だいたいのお店は閉まっちゃってるので名物料理のひとつも食べることができなくて。

そうかぁ〜。それは貧しいね(笑)

打ち上げでは居酒屋に行って、翌朝はすぐに次の場所に移動って感じでした。でも、岡山だけは移動の中継地点に使われることが多かったので、広島や高松、神戸に行く前に立ち寄ることがよくあったんです。ちょっと時間がある時は「せっかくだったら直島に行きましょう」「児島にうどん食べに行きましょう」とか誘ってくれる人もいて。余計に岡山が印象深い土地になっていたんだと思います。

なるほど。

通っているうちに、岡山のあちこちで友達が増えました。それが、今回『ぼくらの岡山案内』をつくることにつながったっていうのもありますね。

うん、本を出すことになってから知り合いもさらに増えたよね。

 

—共著『ぼくらの岡山案内』をつくる前から付き合いがあったというお2人ですが、ランドスケーププロダクツに所属し、一緒にイベントを手がけるようになったきっかけを教えてください。

僕は当時、故郷の鹿児島で何かイベントをやりたいなって漠然と思っていて。でも、自分の思い描くイメージやビジョンはあってもなかなか良い名前が思いつかなかったので、岡本さんに相談したんです。

坂口修一郎

岡本さんは、故郷で手掛ける

野外イベントの名付け親

(坂口修一郎さん)

「みんながフラットな関係で参加して楽しめる野外イベントをやりたい!」って伝えたら、そのビジョンには『GOOD NEIGHBORS JAMBOREE』が合うんじゃないかって。当時、僕は「ランドスケープ」に所属しているわけではなかったので会社を飛び越えての相談でした。一方的ですけど、岡本さんならわかってくれそうだなって思って…(笑)。

僕も坂口くんが相談に来てくれる前からき「ダブルフェイマス」としての音楽活動を知っていたからわかっていたけど。そもそも、何がきっかけで僕に相談することになったんだっけ?

僕が鹿児島に行き来していた時期と、岡本さんが『ぼくの鹿児島案内』をつくっていた時期がかぶっていたんですよ。その時は直接会えなかったんですけど、地元の人から「先週まで岡本仁さんが鹿児島に来ていたんですよ」って話をよく耳にしていました。

もっとさかのぼると、1993年に「ダブルフェイマス」が活動を始めてまもなく、まだライブも数回しかやったことがない頃に『BRUTUS』の誌面にドカンと載せてもらったことがありました。ボサノヴァ特集でインタビューもしてもらって。あとあと知ったんですけど、その企画の編集者が岡本さんだったんですよね。

そうなんですよ。

もう24年前の話ですが、そういう縁もあったので一方的に岡本さんのことは知っていたんです。そこから時間が経って、『ぼくの鹿児島案内』を夢中になって読みました。鹿児島で生まれ育った僕でさえ「えっ、こんな所あるんだ」って知らない情報がたくさん載っていて、目からウロコがポロポロ落ちるような感覚で…。そんなこともあって「これは岡本さんに相談してみよう!」って思ったんです。

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2008年から鹿児島・かわなべ森の学校で開催されている『GOOD NEIGHBORS JAMBOREE』。名前の通り、毎年たくさんの“良き隣人”たちが全国から集う。

坂口くんから「鹿児島の廃校になった小学校を、みんなで使って楽しく1日を過ごすのがイベントのコンセプトです」と聞いた時、まさにこれこそ“BE A GOOD NEIGHBOR”だなって。この言葉をイベント名につけたらいいじゃん!って、今思うとかなり無責任に提案しちゃったけど(笑)。

GOOD NEIGHBOR=良き隣人、いい言葉ですよね。岡本さんが名前をつけてくれた時から、それまで自分の中でぼんやりしていたものがはっきりと見えたんです。単なる音楽だけのフェスティバルにはしたくなかったし、鹿児島の人はもちろん県外から来る人も1日中楽しめるものにしたいなって。ビジョンやイメージが固まるきっかけになったキーワードになりましたね。

 

ー『ぼくらの岡山案内』は岡本さんによるガイドブックシリーズの第4弾目。何度も現地に足を運び、本当にいいと思った場所を紹介する人気シリーズですが、どのようにして本をつくっているのでしょうか。

僕がマガジンハウスにいた頃に、「ランドスケーププロダクツ」代表の中原慎一郎くんが鹿児島に『DWELL playmountain(デュエル プレイマウンテン)』というお店を作ったんです。そのお店を訪れた知り合いがみんな口々に面白かったって自慢する。たまたま中原くんに会った時に、「ぜひ鹿児島を案内してほしい」ってお願いをしたんです。

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奥ゆかしい岡山の魅力が

本を通して伝わるように

(岡本仁さん)

行ってみたら本当に面白くって。当時書いていた「こういうお店に行った」とかのブログに書き溜めていたんです。マガジンハウスを辞めて、僕もランドスケープに入ることになって、自分たちで見つけた“鹿児島のいいところ”を本にしたらどうかという話が持ち上がって…。『ぼくの鹿児島案内』は当時書いていたブログがベースになっているんですよ。鹿児島の楽しさを伝えてくれた周りの仲間にも協力してもらって…。『ぼくらの岡山案内』も坂口くんや岡山の友人たちに手助けしてもらいながら、岡山での旅を通して、あらためて気付いた魅力が伝わるような一冊にできたらいいなって思って。

本を作るなかでも“BE A GOOD NEIGHBOR”という言葉は、ぼくたちにとっても、大きなキーワードになっていますよね。

そうだね。ちょうど鹿児島案内を作ったときから“BE A GOOD NEIGHBOR”という言葉が僕の中でブームになっていたんです。好きなこの言葉を一つの旗頭にして何かできたらいいなぁと。そこから、ランドスケープに入った2010年にコーヒーショップ「BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK」もできて…。そこからいろんなことがつながっていますね。

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ランドスケーププロダクツが運営するお店「BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK」

 

—全国各地を訪れ、その土地ならではの食や文化に触れ合うことも多いというお2人ですが、地元の方との交流も積極的に行っていますよね。

2014年から「GOOD NEIGHBORS COLLEGE」という編集ワークショップを始めたんです。自分たちが住んでいる街の魅力を人に伝えようとすることで、改めて街のことをよく見つめ直すようになるじゃないですか。身近な所に魅力的なものがたくさんあるのに、普段はそれを見過ごしてしまいがち。そう思って『Judd.』という鹿児島のフリーマガジンを参加者と一緒に作るようになりました。

岡本仁

ローカルならではの発信力や、自分たちでつくる力をみんなが覚えることができたら、いろんな形でたくさんの人に語っていくことができる。

鹿児島だけじゃなくて、香川と岡山の全てに通ずるんですけど、さっき『ぼくらの岡山案内』を書いてから、もう4回は岡山に行っているって言ったじゃないですか。自分たちで発信すると、そこからまた何か新しいものを呼び込むというか…。フランスに行ったとき、『Judd.』を現地のいろんな人に見せたんですよ。1ページ目で岡本さんが鹿児島の「ボゼ祭り(トカラ列島の悪石島に伝わる来訪神行事)」というお祭りを取り上げていて。それを見た現地の人たちが「フランスにもボセみたいなのがいっぱい置いてあるよ」「こういうのが好きならケ・ブランリ美術館に行ってみなよ」って教えてくれたり…。

うん。ボゼ祭りは銀座でやってたシャルル・フレジェの写真展『YOKAI NO SHIMA(ヨウカイノシマ)』で偶然知って。シャルル・フレジェは日本各地の祭りに登場する歳神や妖怪たちを撮影している写真家で、すごくユニーク。その写真展にも各地の仮面や鬼の写真が展示されていたんだけど、キテレツな仮面をしているのは、大体が沖縄か鹿児島(笑)。そういう知的好奇心を刺激してくれるものって身近にあるものだなぁと感じました。それぞれみんなが意識してみると、とても掘りがいがあるんです。

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岡本さんが主宰するワークショップでつくった「Judd. 第12号」。岡本さんが紹介したシャルル・フレジェの写真展『YOKAI NO SHIMA』

あと、鹿児島の人は性格的に熱い。それと対照的に岡山の人はクールで、落ち着いた対応の人が多い印象。自分たちの宣伝や自己アピールをあまりしないじゃないですか。そんなおだやかな岡山が逆に羨ましい。だからこそ、岡山の楽しさが伝わる本を作れたらいいなって。本を作り終えたけど、引き続き岡山に対する好奇心も止まらないし、これからも行くことが多いと思うので、足を運んでいるうちにまた新しい何かが掴めたらいいな。

そうですね。今度はこの本をきっかけにして、つながりが広がったり、次の目的が見つかったりするような気がします。

 

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【関連記事】
[第1回]何度も足を運んで気付いた。ぼくらが「岡山」に通い詰める理由
[第2回]みんなが「良き隣人」に。ローカルを拠点にした“カタチのない楽しみ”の作り方
[第3回]声を大にして伝えたい!「奥ゆかしさが詰まった岡山の魅力」

 

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