Boojilの「おかっぱちゃんと難あり家族」

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第2話「お父さん、パソコンにはまる」

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Boojil
イラストレーター
1984年横浜生まれ、東京都在住。アジア、中南米などの海外ひとり旅から生まれたカラフルでピースフルな作風で、観る人を優しい気持ちにしてくれる不思議な力を持つアーティスト。メキシコ、グアテマラへ留学し、スペイン語と民芸品作りを学んだ経験を持つ。練馬区上石神井に拠点を移し、アトリエ兼、イベントスペース「東京おかっぱちゃんハウス」をオープン。NHK Eテレ アニメ「おかっぱちゃん旅に出る」、NHK総合「妄想ニホン料理」を始めとするテレビ番組のアートワークや広告、雑誌などの紙媒体を中心に、イラスト、デザインを担当するなど幅広く活動中。

【登場人物】

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おかっぱちゃん…28歳、イラストレーター。いつもふざけてばかりいる末っ子。趣味はひとり旅。

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じょうや(父)…60歳、職人。力持ち、頼りになる人。明るいが短気な一面もあり。趣味は海遊び。

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まちこ(母)…60歳、会社員。少女のようなかわいい人。家族のなかでは“天然ボケ”で有名。趣味はガーデニング。

 

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2話「お父さん、パソコンにはまる」

 

”お父さん”にもいろんなタイプがあると思う。やさしいお父さん、おもしろいお父さん、物静かなお父さん…。我が家の父は、どちらかというとその真ん中にあたる”おもしろい”人で、とにかく個性が強い。冗談を言って笑わせるおもしろさだけではなく、父の行動はいつも奇想天外なのだ。

 

今日はそんな私の父、じょうやの話をしようと思う。

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わたしの父は多趣味で、学生時代は水泳部に所属していたこともあり、還暦を過ぎたこの歳でも釣りに、ヨットに海遊びにと余念がない。その他、日曜大工から野球、自転車などいろいろと好きなものがある。

 

浅く広く色々なものに手を出すというよりは、深く広く、どれをとっても凝ってしまう人で一度ハマるとうまくなるまで集中的にやり続けるたちだ。

 

あれは今から15年ほど前。

我が家に初めてパソコンが導入された。その頃、自宅にパソコンがある家はわりと珍しいほうだった。

 

父はあるパソコン専門誌を購読していて、趣味として雑誌片手に自分でパソコンを組み立てていた。「パソコンって自分でも作れるのか…」と当時のわたしは父を天才だと思い込んでいた。こうしてパソコンが導入されたのはいいが、実際使ってみようと父がパソコンを立ち上げるも、操作するとなるとこれが難しい。

 

父が、一番苦戦したこと。

それはブラインドタッチである。画面を見たまま、手元を見ずにキーボードを打つことは、当時50代を目前にした初老の父にとって容易なことではない。

 

父:「お前、ブラインドタッチってできるか?」

わたし:「え、できるよ。地道に覚えたよ。」

父:「う~ん、そうかぁ。何か上達する良い方法知らないか?」

 

わたしは父にインターネット上にあるブラインドタッチが上達するゲームを紹介した。そのゲームとは画面上にa、b、cとアルファベットが次から次へと出てきて、その通りキーボードを打つ。という非常にシンプルなもの。そして何回も続けていくうちに、いつの間にかブラインドタッチを習得しているという優れもの。

 

父は仕事から帰るなり、真っ先に机に向かってパソコンを立ち上げ

「え~っとA、エーはどこだ。あぁ、ここか。B…ビービービーと…」

 

たどたどしい手つきで1文字、1文字キーボードを押して行く。

「F、エフ、エフ~おぉ、あったぞ、あった。ポチポチと…」

 

数時間が経ち、なんとか「Z」まで打ち終わったところで初日の練習は終わった。その日を境に、毎晩のように父は練習に励むようになった。

 

そして1カ月が経った頃。

父の努力が実を結び、AからZがキーボード上のどの位置にあるか手元をみなくとも大体わかるようになっていた。わたしが教えたブラインドタッチゲームにも飽きてきたように見える。

 

その日、夕飯を食べ終えた父はなぜか机にキーボードを設置し、ニュース番組を観ながらブツブツと独り言をつぶやき始めた。

 

「え~っと、あすは…晴れ…Hはどこだっけ、えぇっと~ 晴れることでしょう。か!ヨシ」

 

何をやっているんだろう…?と、ふと父の手元を見ると、テレビから流れてくるキャスターの会話をキーボードに打ち込んでいるではないか。

 

次から次へとキーボードに打ち込んでいく父。「ちょっとお父さん、それは練習になるの…?」と不思議な顔をして眺めている母。すぐさま父は

 

「え〜っと、ちょっと…お・と・う・さ・ N、Nはどこだ。ここだ ”ん”。ヨシ!」

 

と、母が言葉にした内容まで打ち込みはじめるので、驚く。

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最初はおもしろがっていたわたしたちだったが、父にお構いなしにベラベラ話し込んでいると、父はわたしと母の会話を復唱し、キーボードに打ち込みはじめるのだから飽きれてしまう。

 

そんな珍妙な行動を連日連夜続けた父。わたしも母も「よくやるよね〜」と、努力の域を超えた父の執念にしつこさを感じはじめていた。

 

週末になり、母から「ちょっとお父さん起こしてきて!」と頼まれたので「お父さん〜朝だよ〜!」と、父を起こそうとかぶっていた布団をはがすと…なんと

父はキーボードを抱きかかえ眠っていた。

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前の晩、キーボードをベッドに持ち込み、眠る直前までタイピング練習をしていた父。”凝り性にもほどがあるな…”と、キーボードを抱いてぐっすり眠る父を見て、わたしは飽いた口がふさがらなかった。

 

tsuduku

 

次回は「全力疾走!姉とマラソン大会」をお届けします!