
- キムケン
- 漫画料理家
- 昼間は会社員、夜は料理人、休日は絵描き。アメーバ公式ブログ「木村食堂」では、身近で手に入りやすい食材を使ったレシピと、その料理にまつわる四コマ漫画をほぼ毎日更新中。著作に『うちメシ - ゆかいな我が家の漫画とレシピ -』(ワニブックス)他、雑誌や料理サイトでのレシピ連載多数。
- 木村食堂
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私はとろとろとした食感の「あんかけ」が大好きで、とりあえず何でもあんかけにしておけば大丈夫だろうという思いが少なからずあります。
そのあんかけが「水で溶いた片栗粉を混ぜるだけで作れる」ということを知ったのは、大学生時代。アルバイトをしていた店のレシピの「とろとろ中華あんの揚げ出し豆腐」なるものを作った時でした。
その時の衝撃は凄まじいもので、あんかけが自分で作れるようになった喜びを抑えきれずに、何でもかんでもあんかけにしてしまうようになりました。
野菜炒めを作っても「これあんかけにすればいいんじゃない?」と、とろみをつけ始め、スープを作った時も「これはとろみをつけるべきだ」と水溶き片栗粉を混ぜ合わせる日々が続きました。
そんな状態ですので、友人を自宅に招いてちょっとしたホームパーティーをした時の8割のメニューがあんかけになってしまい、「あいつはなんでもあんかけにすればいいと思ってる」と言われるようになってしまいました。
しかし私も大人になり、何でもかんでもあんかけにすればいいというものではないことをわかってきました。素材の味を楽しむ──それこそが食事における最大の楽しみだということがわかってきたのです。
そんな時に、素材の旨味を楽しめそうなスープと出会いました。
具材はたまごだけという、なんとも潔の良い、まさに素材の味を楽しむ一品です。
普通のたまごスープと呼ばれるものの比ではないたまご感です。なにせ当社比2倍です。
しかし私は、このスープをいただきながら、ある気持ちを抑えきれずにいました。
──これ、あんかけにすればいいんじゃない?
カニかまをプラスして、あんかけチャーハンにしてしまいました。間違いのないおいしさでした。
結局、私は「なんでもあんかけにしてしまえばいい」と思っていたあの頃から、何も変わっていなかったのです。
でも、めまぐるしい時代の変化が続く現代社会において、変わらないものがあってもいいんじゃないか。
片栗粉を握り締めながら、そう思ったのです。