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小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第31回】こじらせ寒波が襲来する冬の夜に食べる、うるおい補給粥と孤独のレッスン

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?

発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

僕、少女マンガウォッチが好きで、ブログやコラムに「女子の運命」についての考察を書いていたら、いつしか妙齢女子たちから相談が寄せられるようになりました。

 

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***

 

孤独な夜、こじらせという名の底冷えが妙齢女子を襲う

僕の定義する「妙齢女子」とは、20代半ば過ぎから40歳手前のコムスメでもないが、全面的おばさんというわけでもない「グレーゾーンに生きる流浪の民」のことを指します。

 

このような民たちから、

「ヒラクさん、ワタシのこれまでの人生…聞いてもらってもいいですか…?」

 

と黄金期の雑誌『ロッキンオン・ジャパン』の巻頭インタビュー記事みたいなエモさとボリュームのメッセージが送られてきたりします(山梨まで訪ねてくる猛者もいる)。

 

そこで語られる驚天動地の泥沼トークを数多聞くうちに、ある種類の妙齢女子たちを襲う「身体の芯から凍りつくエッジーな孤独」を僕自身も感じられるようになりました(感じることのメリットは特に無いのだが)。

 

人生の嗜みかたも自分なりの美意識も会得し、仕事も遊びもバリバリ楽しみ、ある程度自由になるお金もあり、心ときめく出会いもないことはない。

 

しかし、心の奥が冷えている。

 

夜中、かかとのカサカサをケアする己の顔を鏡で見てみたらビックリするぐらい目が笑ってないことに戦慄する。今日という日が明日も続くことに恐怖しつつ、ラディカルに自分を変える理由もない。今日まで積み上げてきた自分の美意識そのものが、明日の自分を脅かしている。

 

なんなら「自分を愛する」ということに飽きているのではないか…。てか、「人を愛する」という気持ちも忘れかけてる?そもそも好きって気持ちって何?

 

と、様々な疑惑がアタマのなかを駆け巡り、思わず叫び出しそうになる(しかも、かん高い「キャー!」とかではなく、ややドスのきいた「うおぅ…!」的な)。

 

これが世に言う

 

冬の夜のこじらせ寒波到来

 

である(言っているのは僕しかいないが)。

 

***

 

「うるおい補給粥」を食べて心を整える

孤独の乾いた寒さに震えて寝付けない夜は、お粥を食べるというのはどうだろうか。

 

僕は体調が悪い時や心が動揺した時は静かにお粥をすする。するとうるおうのだよ、心と身体が。

これを僕は「うるおい補給粥」と名付けたい。

 

うるおい補給粥は、なるべくシンプルで淡味なレシピが良い。

 

1. まずは生米を50gほど用意して軽く洗い、
2. カップ2杯分(360ml)の水と米を鍋に入れ、
3. 限りなく弱火に近い中火で30〜40分程煮込み続ける
4. 食べる前に小さじ1杯分の塩麹(なければ塩を少しだけ振ってもいい)を混ぜる。

 

基本はこれで完成。

 

そして器によそったうえで、①梅干し②納豆(できればひき割り)を投下するとしみじみと美味しい。

 

個人的に好きなのは②の納豆。トロトロになった米の質感とひき割り納豆のシャープなネバネバ感が絶妙なハーモニーを奏で、なんかこう、しっとりするのであるよ。質感的に。

 

ひとりの夜って、もの寂しいじゃないですか。
でも、お粥をつくる時のコンロの小さな火を見てると、夜、見知らぬ街を歩いている時に見る家の窓の灯火(ともしび)みたいな安心感があるんですね。

 

“万有引力とは ひき合う孤独の力である

宇宙はひずんでいる それ故みんなはもとめ合う”

(谷川俊太郎『二十億光年の孤独』)

 

こじらせた妙齢女子たちが多く住む都会の夜って飲食店がオープンしちゃってるから、家の外へ出てついラーメンとか牛丼とか、ついでにビールとか頼んでカウンターでひとり意味もなく号泣したりしちゃうじゃないですか(こないだそういう女子見かけたんですけど何があったのでしょうか)。

 

それで過剰な脂肪分と炭水化物に胃腸やられて家に帰って「もう明日なんてこなければいいのに…!」とやけっぱちになるのはあんまり生産的じゃない。

 

なので、あえて家を出ずに静かにお粥をつくり、静かにすすり、静かに満たされ、孤独を抱きまくらにして静かに眠りにつく。ついでに足元には100円ショップで売ってるミニ湯たんぽを入れる。あったけぇ…!

 

***

 

お粥は孤独のレッスンである

深夜にひとりお粥をすすると、孤独について思いを馳せる。

 

前述の谷川俊太郎の詩が教えてくれるのは、

 

「孤独だから不幸になるわけではない。むしろ孤独から出発することで誰かと出会うことができる」

 

ということだ。

 

その証拠にお粥を見てみたまえ。調理前の生米の状態では米の一粒一粒は孤独に震えている。

 

しかし、時間をかけて水分と熱を加えていくことによって、米粒たちがやわらかくなりゆるやかに溶け合い、ほっこりとした美味しい食べ物へと変わるのであるよ。

 

 

人生も、お粥のようなものであると言えないだろうか。
 

乾いて硬くなっている孤独な米粒に、ゆっくりうるおいと温もりを加えていく。魂という名のでんぷん質をアルファ化し、やわらかで美味しいものに変える。

 

お粥という名の人格ができあがったら、そこに梅干しという名の仕事でも、納豆という名の家族でも加えればいい。魂がやわらかければ、どんなものを載せてもいい感じに収まるだろう。

 

 

そう。

 

お粥とは孤独のレッスンなのであるよ。

 

 

それではごきげんよう。

 

 

【追記1】

すでに炊いたご飯からでもお粥をつくることができる。飯米の2〜3倍くらいの水で煮込むと同じテクスチャーになりますよ。

 

【追記2】

納豆にかけるのは付属のタレでもよいが、あくまで淡味を貫くために梅干しの酸味で食べるというのがシブい。塩麹でもワンダフルですぞ。

 

【追記3】

でんぷん質のアルファ化とは、ふだんはタイトに固まっているでんぷん質を熱と水を加えることによってユルユルにし、人間が食べやすくなるようにするオペレーションを指します。

 

【追記4】

これは別に女子の話だけじゃないだろ!というツッコミたい人はこちらの記事をどうぞ。

 

【第22回】なれずしはおじさんの涙の味がする

 

【追記5】

最近「囚われのパルマ」というスマホゲームに底知れぬ女子の闇を感じました。

 

【追記6】

妙齢になると思春期に持て余していた「好きという気持ち」を、道端で小銭を落とすぐらいのカジュアルさで無くしてしまうケースがあるようなので、注意したほうがいいかもしれません。