小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第37回】お手本はブリューゲルの絵画? ローカル名店の見つけかた。

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?

発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

実はですね。アマノ食堂の僕のコラム、今回でなんと通算50回目を迎えました。

 

気づいたら連載スタートから3年が経過。移り変わりの激しい世相のなかでこんなニッチな企画を細々と続けられてアマノ食堂の皆さまに感謝しかねぇ…!

 

改めて、いつもありがとうございます。

そして読者の皆さまも引き続きどうぞよろしく。

 

▶過去記事はこちら

手前味噌TIMES

発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~

 

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さて。

記念すべき50回目のコラム。お題はずばり、

 

ローカル名店の見つけかた!

 

 

自炊すると外食に求めるハードルが上がる

 

この連載が始まるちょっと前に、僕は東京の井の頭公園近くから、山梨県甲州市の山の中に引っ越しました。最寄り駅まで約7km、山道を車で行かないとたどり着けない田舎に暮らしてみると、東京時代のように気軽に外食するのが困難になります。

 

以前は毎晩のように来ていた飲み会のお誘いもさっぱり途絶え、夜は獣の遠吠えを聴きながら膝のうえに猫ちゃんをのせて、ひとりワインのグラスを傾ける…という、ヨーロッパの没落貴族のような感じになるんだよ。

 

このような状況になると、必然的に自炊に情熱を燃やすようになります。

 

前から料理は好きだったんですが、「おいしいもの食べる=自分でつくる」環境になると、近所からおすそ分けしてもらえる季節の食材をいかに美味しく食べるか…と知恵と手間をぶっ込んであれこれ実験するようになります。

 

すると当然、自炊スキルが爆上がりする。

 

そうすると、ますます中途半端な外食とか出前とかを食べる気がなくなってくる。

 

たまに山を降りて都会で食事をとる時には「普段の自炊では到底できない食体験」を求めて飲食店を厳しく吟味するようになるのは必然。

 

自炊力と飲食店の選定力は比例する。

 

これつまり、宇宙を支配する普遍の理…!!

 

 

いかにしてイケてる飲食店を見つけるか?

 

ふだんは山の中に住みつつも、僕は日本全国、海外にもよく出張します。

 

お昼や夜に1人でご飯を食べる貴重な機会があると、当然食いしんぼうアンテナの感度を最大にしてイケてる飲食店を探すじゃないですか。

 

「イマイチな外食するぐらいだったら何も食べない」がマイポリシーなので、イケてる店が見つからなかったら餓死するリスクすらあるわけよ。

 

その極限状態のなかで、いかにナイスな飲食店を見つけるのか…。

 

「ネットで検索したらいいんじゃない?」

 

一理ある。

 

しかし僕の経験上、大都市の繁華街以外では主要グルメリサーチサービスの評価はアテにならない。そして間違いなく高評価の店は要予約でしかも1人では入りづらいんだよ。しかもそれが海外の小国だったりすると、そもそも言語がわからないからネット検索しても梨の礫(つぶて)…!

 

(英語で書かれた口コミもあるが、それはつまり観光客目線なので、ローカル名店発見は難しい)

 

ネット検索以外で考えられる方法は、

 

・各地に食いしん坊の友達を持つ

自分なりの「名店リサーチ基準」を持つ

 

の2つだ。

 

優先順位で言えば「食いしん坊のオススメに従う」が一番で、次善策として「自分なりの基準で選ぶ」となる。

 

こないだミラノに行った時は、パオロ君というワイン醸造家一族に生まれたサラブレッド食いしん坊(ガストロノーム)激推しのトリッパ(イタリア式もつ焼き)屋さんに行ったのだけど、筆舌に尽くしがたい美食体験に悶絶した…!

 

おいしいものを味わうことに執着し、誰よりもいおいしそうに食べ、牧師が天地創造を語るがごとく調理法や食材の成り立ちを熱狂的に語る。しかも、自分の独断に陥ることなくジャンル横断で食を系譜的に捉える知性もある。

 

こういう食いしん坊の知り合いが各地にいると旅はがぜん楽しくなるのであるよ。

 

「質問! どうやったらそういうスーパー食いしん坊と仲良くなれるの?」

 

そうね…。

 

まずは自分が比類なき食いしん坊になることかな(類は友を呼ぶ理論)。

 

 

リーズナブルで地元民に愛される名店

 

食いしん坊の友達がいない場合はどうするか?

 

当然自分で見つけなければイケてる飲食店にはたどり着けない。

 

でね。ここで話を進める前に「イケてる飲食店」をきちんと定義しておかねばいけない。飲食店のイケかたには、

 

・著名な高級店

・ローカル名店

 

の2方向がある。

 

前者は世界の食通が認める高級割烹やフレンチ、創作料理の名店がその代表。旅のさなかにふらっと入るには予算的にも空間的にもハードルが高く、数ヶ月前から予約しなければいけなかったりする。

 

こういう店に行くにはそれ相応の段取りが必要だ。

 

ということで。

 

このコラムの主眼となるのは後者の「ローカル名店」ということになる。地元民に愛され、いつ行っても人がいっぱいで、その土地の美味しいもの好きが「あまり教えたくないけど、あの店は最高だ」とこっそり教えてくれる、何を頼んでもリーズナブルかつ美味な街場の名店

 

こここそが、生半可な外食を許せない自炊の旅人が行き着くべきオアシス…!

 

僕がさっき「各地に食いしん坊の友達を持て!」と力説したのは、彼らの指し示す道こそがオアシスへの最短距離だからだ。

 

しかし残念なことに、いつでもガイドがいるわけではない。

 

時には星座を頼りに自力で砂漠を渡っていかねばいけない時もある。

 

その時に何がコンパスになるのだろうか?

 

地元民に愛される街場のローカル名店のきざし。それは、

 

・ブリューゲルの絵画のように地元民で盛り上がっている

・ボロいけど汚くはない

 

この2つなのであるよ。

 

この2つを兼ね備えた店はすなわち名店であると言っても過言ではない…!(私見だけどこれは日本に限らず万国共通)

 

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ブリューゲルの名作『農民の婚宴』。こんな店内が望ましい

 

「地元民でパンパン」

「ボロいけど汚くはない」

 

この2つは密接に連動している。老いも若きも地元民みんなにリピートしてもらえるためには、

 

・価格がリーズナブルである

・なるべくいっぱいの人が入れる&回転率が高い

 

という店にしなければいけない。すると、

 

リーズナブルで美味しいので人がいっぱい入る

するとどんどん店の設備が消耗する

しかし居心地が悪くならないように掃除は手を抜かない

 

というサイクルになり「ボロいけど汚くはない」というローカル名店独特のテクスチャーが爆誕する。

 

日本で言えば、数十年に渡って愛されるラーメン店であり、カウンターに老若男女がギッシリの小料理屋であり、店内を店員が駆け回る中華料理屋だ。

 

ほら店の様子をイメージしてください。若干くたびれているが、丁寧に拭き上げられたテーブルや椅子、年季を感じる軒先にかけられた、ピカピカに洗濯したのれん。床や壁の隅っこにもホコリは微塵もたまっていない。

 

混雑しているが、空気は淀んでいない。活気はあるが、不思議に落ち着く。

 

けっこうメニュー多いのに、料理出てくるの速い! しかも大体おいしい。そして最後、お会計の金額見たら安すぎてビックリ!

 

こういうローカル名店はたいだいブリューゲルの絵画っぽい。

 

この「ブリューゲル感」をコンパスにローカル名店で外食を満喫しようではないか!

 

 

それではごきげんよう。

 

 

【追記1】ちなみにローカル名店を自力で探す場合は、ロケーションの選定もめちゃ大事。繁華街や観光地から離れた場所にある名店も多いけど、地理感がないとそもそもそういう場所には行けないので、目抜き通りの1本脇に入った路地裏や小路を当たるのが吉ですぞ。

 

【追記2】ちなみにこないだ旅していたハンガリー・ブダペストでも2軒ほどローカル名店を見つけました。1軒は繁華街の裏道にある半分オープンエアの地元民でいっぱいの伝統料理店。もう1軒が、これまた路地裏にあるオープン前からお客さんでいっぱいのベトナム料理店。どちらも最高だった…!

 

国内で忘れられないのは、大阪の韓国料理街のど真ん中にある、どう考えても立ちそば屋さんにしか見えないカウンターのみのお寿司屋さん。

 

韓国料理食べにきたのにそのお店のブリューゲル感が見逃せず、思い切って入ってみたらどのネタも最高すぎて、しかも値段も予想の半額以下だった…!