小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第42回】こじれた魂は、新年のお屠蘇で清めたまえ…!

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

いつの間にか2018年も終わりです。

 

今年の僕はひたすら旅ばっかりしておりまして、日本はもちろん世界あちこちの土地を飛び回って発酵文化の調査や微生物の研究に精を出していました。

 

いっぱい旅して色んなものを持ち帰ってアタマも仕事場もぐちゃぐちゃなまま一年を終えそうなので、新年は自分をすっきりリセットして迎えたいなと心底願っているんだよね。

 

ほら。学生だったら新学期のクラス替え、社会人だったら新年度の部署移動なんかで「新シーズン始まったなあ」みたいなリセット機会がありますが、自営業だとそういうチャンスもなく、なんとなく惰性でルーティンが続いて「ワタシ、このままでいいのかしら?」と漠然と未来に不安を抱きながら、しかしラディカルに人生を変える勇気もなく、帰りの電車でたまたま目があった雰囲気ある山田孝之似のイケメンと

 

「あの…すいません、これからちょっと飲みに行きません? 例えばクラフトジンとか…」

と誘われて

 

「何か 前に会った気がするんですよね…」

 

「えっ、◯△中学出身? 僕半年だけそこ通ってました!」

 

「はいはいはい! 覚えてます覚えてます!!」

 

「えっ、あれ義理チョコじゃなかったの?」

 

「ごめんね、ホワイトデーの前の日に親の転勤についていかなきゃいけなくなって…」

 

「じゃあ、今夜…お返ししていい…?」

 

みたいな展開にならないかな? と妄想しながら回転寿司屋さんのカウンターで卵焼きをアテにひとり瓶ビールを小さいグラスに注いで飲んでる…という日々を過ごすことになりがちじゃないですか。

 

そんなエンドレスルーティンのドツボにはまらないためにも、新年をどう過ごすかが重要! クラス替えも人事異動も電車ナンパもない人生におけるシーズンのリセット法、それはお屠蘇だッ!

 

 

正月の酒は信仰とつながっている

お正月、神社に初詣に行くと境内で甘酒が振舞われたりしますよね。古来から日本には年の初めにありがたいお神酒(みき)を頂くという習慣があってだな。初詣の甘酒は、このお神酒が簡易化したものなんですね。甘酒だったらお酒飲めない人も子供も飲めるし。

 

さてこのお神酒。甘酒よりも本式になると日本酒を飲むことになる。

 

新年に親族で集まった時はおせちに日本酒!というお正月の風物詩は、実は信仰とも強く結びついている。日本酒メーカーもお正月になるとその土地の神社や京都の松尾大社にお酒を奉納する。人間よりも先にまず神さまにお酒を奉り、そのあとに人間がご相伴にあずかるという形式なんだね。

 

近年美味しいもの好きの老若男女の大トレンドになっている日本酒だが、古代まで辿るとグルメの側面よりも神事の側面のほうが強かった。

 

酒を通して神さま、もっといえば超自然の力とつながろうとしたんですね。このへん詳しくは僕の著書『発酵文化人類学』に書いてあるので興味のある方はご一読あれ。

 

さて。実はお神酒よりもさらにルーツの古いの正月のお酒がある。それがお屠蘇(とそ)なんですね。

 

そもそもお屠蘇とは何ぞや?

 

お屠蘇とは、お酒に複数種の漢方薬を浸した薬用酒のこと。

 

メジャーなレシピだと、山椒の実やみかんの皮(陳皮)、肉桂の樹皮、白朮(オケラ)やボウフウ、桔梗の根っこなどをブレンドしてお酒に浸してエッセンスを抽出していきます。

 

もとは古代中国のレシピで、漢方好きにはおなじみ『本草綱目』にも掲載されています(大黄とかトリカブトとか激烈な生薬が入っているハードコアレシピで、今の日本のものとは違って本格的な薬用酒のよう)。これが平安時代あたりに日本に入って定着したようなんですね。

 

「で、どうやったらお屠蘇飲めるんだYO!?」

 

実はお正月近くになると薬局でこのブレンド漢方薬が「屠蘇延命散」あるいは「屠蘇散」という名前で売っているんだよ。なんならamazonでも買える。これをティーパックのようにしてお酒に浸けて飲む。

 

本当に本格的にやるんなら赤い漆の酒器に入れ、大中小とおちょこを変えながら飲むのだけど、一般家庭でそんな器セット持っている人見たことない!

 

なお、昔は甘いものが高級なものとされたので、いわゆる日本酒ではなくみりんでお屠蘇をつくるのもよくやられていたようです。

 

「えっ、みりんって飲んで美味しいの?」

 

うん。スーパーで安く売られているみりんは糖分やアルコールなどを添加してつくられた「甘味付け調味料」なのだが、米と麹だけでつくるクラシックなみりんはお酒として飲んでもめちゃ美味しい。

 

この美味しい本格みりんに屠蘇散を抽出させるとさてどんな味になるかというとだな。

 

なんというか、和製イエーガーマイスターみたいな感じなんですね。クスリっぽくて濃厚な甘い酒で、どう考えてもおせちとか鍋とかに合わせて飲む感じじゃない。なんならソーダで割りたい…!という感じのガチな薬用酒です。

 

つまりだな。

 

お屠蘇というのは宴会用の食中酒ではなく、ちゃんと事前に準備して、かしこまって飲むお酒。

 

つまり儀式としての酒なんですね。「うまーい飲みやすーいひゃっほーう!」と浮かれて飲むのではなく、ゆく年のアレコレを振り返り、来る年の抱負を胸に抱きながらクッ!と飲み、己の器の小ささを受け入れ、それでも世のためにできることに貢献しようと意気込みを新たに新年を迎える。

 

それがお屠蘇の儀式。

 

 

邪悪を葬り、ピュアな魂を甦らせる

「お屠蘇」の字面をよく見てみると、「屠(ほふ)る」と「蘇(よみがえ)る」という相反する漢字が並んでいることに気づく。お屠蘇の語源を調べてみると「悪鬼を屠って邪気を祓い、魂を蘇らせる」という意味が見つかる。

 

信仰的に言えば、悪い鬼を追い払い、清らかに新たな命を迎えるというおごそかな感じのイメージになる。

 

そして。

 

この連載を読んでいるような絶妙にソウルがこじれている妙齢男女に重ねてみると、これまでの嫉妬と見栄と卑屈と自己承認欲求に溺れた邪悪な自分のソウルを清め、マインドフルでピースフルでハートフルな菩薩のようなピュアなソウルを目指していくための「魂の分かれ道」の儀式。いわば山手線と常磐線が分岐する日暮里駅がお屠蘇と言えよう。

 

魂のこじらせに悩む善男善女よ、新年はクラシックお屠蘇をキメて迎えようではないか…!

 

 

それでは良いお年を。