小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第45回】納豆×麹×乳酸発酵? 青森十和田『ごど』の衝撃

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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

味噌汁飲んでますか?

発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

こないだ青森県十和田で見つけた、とんでもないローカル発酵食品の話を聞いてもらっていいですか?

 

 

謎の発酵食品『ごど』

 

こないだまで47都道府県津々浦々のローカル発酵食品を探す旅をしていたのですが、青森に住む友人の安藤さんから、

 

「ヒラクさん、『ごど』っていう謎の発酵食品をつくっているお母さんのところへ行きませんか…?」

 

という魅惑のオファーが。そりゃ行くしかないYO!

 

さっそく青森へ飛び、訪れたのは青森県南部地方の内陸にある十和田の町(ネイチャー好きの聖地、十和田湖で有名ですね)。この十和田だけでお母さんがこっそり手づくりしている『ごど』の貴重な手づくりの現場を見ることができるとのこと。

 

さて、この『ごど』。いったいどんな食べ物なのかというとだな。

 

端的に言えば、

 

納豆に麹を混ぜ、さらに乳酸発酵によって酸っぱくしたもの

 

だ。チャーシュー×ノリ×味付け卵の全部乗せラーメンみたいに凶悪スペックな発酵食品ではないか…! そんな凶悪なブツを青森のお母さんたちが粛々と仕込む現場はちょっと言葉にできない異次元があったよ…!

 

『ごど』の作り方は以下のとおり。

 

・一晩浸水した大豆を柔らかくなるまで煮る

・煮大豆をコタツや熾火(おきび)などを使って40℃強に保温し、納豆にする

・できた納豆に少量の塩(5%以下)と麹を混ぜ室温で発酵

・1週間ほど発酵させ、麹やコメがドロドロに溶けたところで食べる

 

というもの。

 

なお人によっては大豆を煮る前に炒って香ばしさを加えたり、麹と一緒に米を混ぜて甘さを加えたりする。つまりお母さんの数だけ方法論がある。『ごど』はHIP HOPのごとく、十和田のお母さんたちのスタイルウォーズなのだね。

 

テクスチャーは、納豆を塩麹にした感じ。味噌と違って豆を潰さず、粒のままのヌルヌルの豆がドロドロの麹にからみ、妖しい光沢と香りを放っている…! しかも味噌や醤油よりも塩分が少ないので、しばらく置いておくとヨーグルトっぽい乳酸発酵まで付け足される。

 

食べると、豆のまろやかさ、納豆のスティッキーな質感、麹の甘味と旨味、乳酸発酵の酸っぱさが複雑に絡み合う、なんというかめちゃめちゃクセになる味わいなんだよ。

 

 

『ごど』の恐るべき可能性

 

…ハッキリ言おう。『ごど』はすごくおいしい。そして、昨今の発酵食ブームのトレンドをまとめてかけ合わせたような現代性もある。しかも単なるローカル郷土食をはるかに超えたキャパシティを持っている。

 

イケてるローカル発酵食は全国にある。しかし原料がその土地にしかないものだったり(ex:甲州ワイン)、加工方法がハードコアだったり(ex:フグの卵巣糠漬)、醸せる環境が限定的だったり(ex:すんき漬け)して、他の文化圏での再現性に乏しい。

 

しかし。『ごど』は違う。

 

原料は大豆と麹と塩なのでどこでも手に入る。そして作り方も比較的シンプル。そして基本は保温して放置するだけなのでどの環境でもつくることができる。しかも作る人によって工夫する余地があり、香ばしくしたり、甘くしたりと好みの味のバリエーションを演出できる。

 

誰でもどこでも作れて、しかも味の好みも反映できる。何よりおいしい。

 

つまり、発酵食品としての普遍性が凝縮されているということなんだよ。こりゃビックリ!

 

 

もったいない精神が生んだ逸品

 

『ごど』の起源をお母さんたちはじめ青森のローカルピーポーに聞いてみた。

 

まず青森の南部地方は湿地が多く米作が難しく、最近になるまで米が主食と根付かず、豆や麦を食べる文化が強かった。そのため各家庭で納豆をつくる文化があったようだ。

 

そして。納豆を手づくりしたことがある人ならわかるはずだが、納豆は温度管理をしくじると「あんまり糸を引かない、味のヘンにひねた納豆もどき」ができてしまうんだね(これはこれで美味いという人もいるが)。

 

『ごど』の起源は、この納豆もどきをなんとかおいしく食べられるようにしたい!という、もったいない精神から生まれたもののようだ。

 

麹の旨味と甘味と甘酒っぽいドロッとしたテクスチャーを足し、アンモニアっぽい酸っぱさの納豆もどきの酸味を乳酸発酵でブーストさせるというスゴい方法論によって、もとの納豆もどきを全体的にリッチなバランスの味に補正している。

 

「マイナスをプラスに転化させる」という素晴らしいクリエイティビティによって生まれた『ごど』。

 

あまりにも感銘を受けたので、僕もさっそくラボで『ごど』をつくってみることに。無事作り方を覚えたら、近々『ごどづくりワークショップ』をやってみようではないか…!

(できれば十和田からゲストも呼んで)

 

 

それではごきげんよう。