小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

小倉ヒラク プロフィール画像

【第2回】麹(こうじ)からローカルを考えてみる

hiraku03_02_main
小倉ヒラク プロフィール画像
小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

 

 味噌汁飲んでますか?発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

えー、突然ですけど、僕ってば「麹(こうじ)カビの専門家」なんですよね。
日本にしかいない、不思議に役立つカビのことを日夜研究しているわけです。

 

さてこの「麹カビ」、そしてその菌がつくりだす発酵食材の「麹」とは何か。すごく簡単に言うと、お米などの穀物に「麹カビ」をモコモコ生やしたものを「麹」といいます。

 

hiraku03_02_01

 

詳しくは僕のブログをご一読あれ

>そもそも麹(こうじ)とは何か? 和食のエッセンス、ここにあり!

 

パンをつくるときに、イーストをスターターとして使いますね。

それと同じように、麹は和食のスターターになります。

 

お味噌や醤油、日本酒、酢、みりんなど、和食の基礎となる発酵食材は、麹をスターターにしてつくられます。

 

hiraku03_02_02

 

まあ、つまりなんだ。

麹マジで偉大!みんなリスペクトすべき!

って、ことなんです。

 

 

麹にもバリエーションがある

さてそんな麹ですが、実はいくつかバリエーションがあります。

 

【米麹】

…麹と聞いてまず思い浮かべるのはこれ。お米に麹カビをモコモコさせたヤツです。スーパーに売っている麹は、ほぼこの米麹。用途はかなり万能。味噌や甘酒など、幅広く使われます。なぜ幅広く使われるのかというと、お米に含まれているデンプン質(=甘味に変わる)とタンパク質(=旨みに変わる)のバランスが良く、しかもお米を削る(=精米)することによって、その2つの成分のバランスを自在にアレンジすることができるからなんですね。ちなみにこの技術は世界でも類を見ないもので、この米麹のこと「糀(こうじ・米の花)」と言ったりします。

 

(ちなみに「麹」という漢字は中国から伝来したもの)。

 

 

【麦麹】

…大麦に麹カビをモコモコさせたものもあります。

九州や瀬戸内海の地域を中心によく作られています。用途はだいたいお味噌。最近だと醤(ひしお)という、発酵調味料の原点みたいなものをつくるためにも使ったりします。この麦麹を使ったお味噌は発酵がはやく進んで、甘味が強くなるんですよね。ちなみに中国の一般的に使われる麹は、麦やコーリャンなどの雑穀類を砕いて水で練ったモチにクモノスカビという麹カビの親戚みたいなヤツをくっつけて作ります。なので、麦麹は意外に中国の麹に似ているのかもしれません。

 

 

【豆麹】

…大豆に麹カビをモコモコさせたものもあるのだが、知っていますか?

愛知や岐阜など、東海圏の一部に見られる変わり種で、主に八丁味噌をつくるために使われます。大豆は大量のタンパク質が入っているため、この豆麹を使って味噌をつくるとものすごく旨味とコクが出ます。

 

ちなみに日本に伝わった味噌の原型はこの豆麹味噌と言われており、主に神社仏閣で薬としてペロペロされていました。

 

「うめー!超やべー!!」

とお坊さんもシャウトしたことでしょう。

 

【その他】

…実はまだある麹のバリエーション。麦と大豆をミックスした「醤油麹」が代表格ですね。低温で発酵させ、旨味成分だけをギュッと抽出します。

 

他には、沖縄や台湾に伝わる「紅麹」という奇行種もいます。これは普通のお米とモチ米をミックスしたものに水を加えながら、「ベニコウジカビ」という鮮やかなピンク色のカビを生やしていくという不思議すぎる麹。アメリカのお菓子かPANTONEの色見本(←デザイナーにしかわからないネタ)みたいなビビッドにも程がある発色でして、沖縄では豆腐ようという、島豆腐でつくるチーズのような食材に使われます。文化としての本場は台湾で、漢方食材の一種として広く使われています(ミルクと割って飲んだりとか)。僕、この紅麹が大好きでして、いずれこの紅麹について皆さまに詳細を語りたいと思います。

 

更に離島に行きますと、想像を絶する麹も存在します。

 

代表格が奄美諸島に伝わるソテツ麹というヤツで、南国トロピカルなソテツの実をパカっと割って、空中にいる微生物で解毒した後に麹カビをモコモコさせるというスゴいヤツ。これは主食の穀物が満足でない土地ならではの知恵です(戦時中にはふすまで作った麹もありました)。

 

 

ローカルの風土と文化とシンクロする

いかがですか?麹って、結構奥が深いんですよ。

なぜこのようなバリエーションが生まれるかというと、その土地の気候風土や食の嗜好が関わってのこと。

 

例えばだな。

 

僕がいま住んでいる山梨県は、関東では珍しく麦麹の文化があります。

これはなぜかというと、山ばっかりで田んぼが作りにくいから。少ない田んぼの面積を有効活用するために、裏作の麦を麹にしていたんですね。

 

あるいは沖縄。
この土地ではもはや住んでいるカビの種類が違うので、豆腐ようみたいに不思議すぎる麹文化が生まれてくる。

 

このように、麹はローカルの風土や文化にシンクロしているわけです。

 

郷土食のベースとなっている麹がその土地の特性に依存しているということは、つまりその土地に住む人の味覚もまた、その土地の特性によって規定されるということなんですね。

 

自分の食の好みは、自分の意思で決まるのではなく、生まれた土地によって決まる。麹の文化ってのは、かくも奥が深いものなのだよ。