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【第10回】シェーヴル系女子注目!いきなりわかりすぎて困るチーズ講座

初心者でもわかるチーズ講座

味噌汁飲んでますか?

発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

前回のイギリスのリアルエールに引き続き、ヨーロッパの発酵食品の話。

 

ヨーロッパに行って実感するのはチーズ文化の豊かさ。日本でスーパーに行っても、とろけるチーズやおつまみ用チーズなど特定の用途に加工されたものが多くて、存在感バリバリの本格的チーズを手に入れるのが難しい(しかも値段もめちゃ高い)。

 

例えばフランスのスーパーに行ってチーズ売り場を見ると、日本における味噌売り場と同じぐらいのスペースに百花繚乱のチーズが並び、朝昼晩と、焼いたり煮たりワインと合わせたりと様々なバリエーションで食べわけられている。さすがに1000年以上の歴史を感じさせる文化の成熟度なわけなんですね。

 

ということで、今回は意外に知らないチーズの世界にご案内しまーす。

 

 

そもそもチーズとは何か?

 

「チーズの定義とは何か?」

 

新橋のSL広場でサラリーマン100人にこう質問してみても、おそらく2〜3人くらいしか解答できなさそうなチーズの定義は意外にも非常にシンプル。

 

「乳のタンパク質や脂質を凝固させた加工食品」。つまり乳を固めたものなかで、ヨーグルトよりもさらに硬いものの総称です。

 

東はモンゴル〜中東〜ヨーロッパ一帯に古くから伝わる、家畜の乳を使った乳製品の代表格です。もともと液状の乳を凝固させる方法は以下の3通り。

 

【A】牛やヒツジの胃袋にある特殊な酵素(レンネット)を使って凝固させる

【B】乳酸や酢酸など、発酵菌のつくる酸を使って凝固させる

【C】熱を加えて凝固させる

 

一番メジャーなのが【A】。市販のチーズのほとんどが最初の工程としてレンネットで乳を凝固させるというプロセスを経ます。【B】と【C】はちょっと特殊で乳にお酢を入れた後に加熱したりして併用されることが多い(リコッタチーズ)とか。

 

チーズの起源を伝える有名な伝承として「中東のキャラバンがヒツジの胃袋でつくった水筒に朝牛乳を入れておいて、夕方に飲もうとしたらブヨブヨの固まりになっていた。恐る恐るそれを食べてみたらめちゃ美味しくてビックリ!」という微笑ましいエピソードが残っています。

 

で、このレンネットについてもうちょい(最近バカ話が多かったから、たまにはちゃんと科学的解説するよ)。

 

レンネットは、家畜(牛、ヒツジ、山羊など4つの胃を持つ反芻動物)の4つめの胃袋だけにある特殊な酵素群で、乳のカゼインというタンパク質を脂肪と結合させて凝固させるんですね。
でね。実は、授乳期にある子どもの家畜のレンネットでしかチーズをつくることができない。授乳期の家畜のレンネットはキモシンという酵素が主となって構成されているのだけど、乳離れして草を食べるようになるとこのキモシンが少なくなってくるので(乳を吸収消化する必要がなくなるので)、もうレンネットとしては使えなくなってしまう。

 

戦後、チーズを大量生産するためには家畜の胃袋が全然足りない(てか、肉にして食べたい)という状況が訪れた時、東京大学の有馬開博士がレンネットの代用になるムコールレンニンという酵素をつくるカビを発見しました。

現在では、レンネットは微生物の力によって製造されるものがほとんど。

 

うーむ、微生物の力、おそるべし。

 

 

チーズの分類早わかり

では次にチーズの種類について。
実はこれも色々な分類法があるのだけど、ある程度乱暴にまとめると、

 

<フレッシュタイプ>

Ricotta mista

乳を凝固させた後、熟成させないですぐ食べるチーズ。微生物による発酵をほとんど経ないものもあります。リコッタチーズやフロマージュ・ブラン(←ヨーグルトみたいなチーズ)など。一般的なチーズよりやわらかく、口当たりもなめらかで酸味やコクも少なめ。

 

<白カビタイプ>

Portion of creamy Camembert

乳を凝固させた後、表面に白カビをつけて熟成させたチーズ。日本で有名なのはカマンベールチーズ。表面はカビが水分を抜き取ってパリパリになり、中は発酵菌の酵素によってトロトロに溶けてクリーミーな味わい。カビタイプの中ではニオイがそんなに強くないものが多いので日本人の口に合います。

 

<青カビタイプ>

Blue cheese slices closeup

乳を凝固させた後、表面に青カビをつけて熟成させたチーズ。白カビタイプと違って成形する前にカビをつけ、中までカビがびっしり食い込んで青色になるので「ブルーチーズ」と呼ばれます。有名なのはイタリアのゴルゴンゾーラ。ニオイも味も超アグレッシブなものが多く、個人的にはアイドル界でいうところの「ももいろクローバーZ」に相当するカテゴリーだと思ってます(別に思わなくてもいいけど)。

 

<ウォッシュタイプ>

poisses

乳を凝固させて成形した後に、表面をアルコール(地酒とかね)や塩水で洗いながら熟成させるチーズ。表面を洗うことによって生まれる、赤くネバッとしたテクスチャーが特徴です。このテクスチャーはリネンス菌が生み出す発酵作用ですとかチーズの教科書にはサラッと書いてあったりするんだけど、このリネンス菌(Brevibacterium inens)ってのは、枯草菌(こそうきん)というカテゴリに入るバクテリア。もうここまで書いて分かる人もいると思うけど、これは納豆菌の仲間なのだよ(ちなみに化粧も落とさずシャワーも浴びずぶっ倒れて寝た後に、もし野生のヒツジみたいなニオイがしてきたらそれは、このリネンス菌の仲間がつくったものなのだよ)。

 

つまりウォッシュタイプのチーズは「納豆チーズ」と言うこともできる(とか言うと納豆業界とチーズ業界から怒られそうだけど)。
ちなみに代表例としては後述するマロワールがある。

 

<ハードタイプ>

parmesan cheese

長期間熟成させ、水分を飛ばして硬———くしたチーズ。一番ハードなものだと、パルミジャーノ・レッジャーノという中部イタリアの有名なチーズがある(ひき砕いて粉チーズにして使う「パルメザンスタイル」がポピュラーだけど現地ではそのまま食べたりする。フルボディの赤ワインと合わせると超美味い)。セミハードタイプではゴーダチーズとか。

 

<プロセスチーズ>

hiraku_07_02_06

一度作り終わったチーズを熱で溶かしてまた固めたチーズ。菌が死んで発酵が止まるので、品質管理がラクだよ!ということで、日本のスーパーで小分けにして売られているチーズの大半がこのタイプだったりします。

 

他にもヒツジの乳でつくったシェーヴル(フランス語でメスヒツジの意)や、成形した生地を薄く伸ばしながらつくるモッツァレラなど、色々個性派がいるのですが、まあざっとこの辺りを押さえとけば間違いないんでないかと思われます。

 

***

 

超アッサリと超コッテリの両極

そんでね、ようやく旅の話になるんだけどさ。

 

「だいたい2000文字以内くらいでお願いします」と編集部に言われているのだけど、ついつい長くなってしまうヒラクを許しておくれ(この時点ですでに3000文字近い)。

 

今回ポーランドの西の外れの小さな村で、農家のおばちゃんから素朴なつくり方のチーズを習いました。それがどんなものかというとだな。

 

牛乳をぬるめに温める→レンネットを入れる→ブヨブヨの固まりと液体に分離してくる→ザルで固まりだけすくう →以上!

 

という超絶にシンプルな工程で、1時間くらいで出来上がりとなる。ちなみにキャッチの写真はその時のチーズね。表面の模様はザルのカタチだZE!

 

で、食べてみて思わず叫んでしまった。

 

「しょ…醤油もってこーい!!!!」

 

つまり寄せ豆腐。チーズからコクと酸味を取り除くとニアリーイコール豆腐になることが解明されました(汗)。サラダの食材にして使うと素晴らしい風味ですよ。

 

もういっこ、今度は逆に超絶コッテリなチーズのおはなし。

 

昔お付き合いしていた女の子が北フランス出身で、ご両親とご飯を食べた時のこと(もう7〜8年前だ。なつかしー)。

 

「せっかくだし、北フランスらしい料理を食べよう」ということで出てきたのが、チーズフォンデュ。普通のヤツだったら全然ウェルカムなのだが、肝心カナメのチーズが、ウォッシュタイプ界のベルセルク(狂戦士)と称されるマロワール(Maroilles)というバイオハザード級にクサいチーズ。どれくらいクサいかというと、右手にクサヤ(新島発祥のすさまじくクサい魚の漬物)、左手に臭豆腐(中国のハードコアな激臭豆腐)を持ったムキムキの力持ちに全力で往復ビンタをくらった感じといえば伝わるだろうか(伝わらねーよ)。

 

食べた後、何度洗っても着ていた服からニオイが取れなくなりました。(ちなみにマロワールは北フランス以外では食べられないご当地ソウルフードだそうです)

 

この悲劇が原因で別れた…!! ということにもならず、その後も割とたのしくお付き合いが続きました。まあなんというか、クサいものをシェアすると仲が深まるということなんでしょうか。そのうちシェーヴル系女子(野生のヒツジのようなテイストの女子)の時代が来るぜ!(←ホントかよ)

 

 

それではごきげんよう。

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