小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」

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【第12回】ラーメン屋に見る経営の本質。秘訣は、急がばまわれ!

ラーメン屋の経営
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小倉ヒラク
発酵デザイナー
「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。2015年より新作絵本『おうちでかんたんこうじづくり』とともに、「こうじづくり講座」を全国で展開中。著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)が絶賛発売中!

 

味噌汁飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

 

いきなりですが、皆さま、ラーメンはお好きですか?

 

実は僕、25歳過ぎるまであんまりラーメンを食べる習慣がなかったんですよね。デザイナーとして独立してしばらくしてから、大阪のビアバーで仲良くなったお兄ちゃんから「味噌ラーメン屋デザインしませんか?」と言われるまでは。

 

今日のトピックスはラーメン。いつもと趣向を変えて、食道楽やサイエンスではなく「経営」について語りたいと思います( -`д-´)キリッ

 

 

ラーメン屋は最強のビジネスモデルである

では話の続き。

 

当時、味噌のデザインをしていたよしみで、味噌ラーメン屋さんもデザインすることになってしまった新米デザイナー、ヒラク。

 

もともとグラフィックデザイナーだから建築は専門外なんだけど、味噌ラーメン屋の店長・斉藤さんの「味噌のデザインができるんだから大丈夫!」という力強い確信に「うん、まあ…できるかもね」と錯覚し、関西に住んでいる建築家の友だちを巻き込んで、何もないガレージに味噌ラーメン屋さんをつくったのでした(下水管どうしよう?というところからはじまり、現場に入りまくった大変なプロジェクトだったのですが…、それはまた別のお話)。

 

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↑店内のデザイン。とてもラーメン屋とは思えない仕上がり↑

 

さて。ラーメン屋さんを作るならば、ラーメン業界をリサーチすべし!ということで、目につくラーメン屋さんに片っ端から入ってみたんですよ(僕、胃が弱いのでとんこつ系ラーメンを食べたときは丸一日何もできませんでした)。

 

そこでラーメンの味はもちろん、店構え、内装、照明、器、キッチン、BGM、接客、人の導線や滞在時間など、様々な要素をデザイン的に因数分解していった結果、「ラーメン屋は飲食店における最強のビジネスモデル」であることに気づいたわけさ。以下に、最強である理由を記しておきます。

 

【在庫の余りが出ない】

ラーメンって、麺とか具材とか使いまわせる材料がほとんどなので、在庫のロスが出ない(ちなみにラーメン屋さんの正反対はフレンチ)。

 

【お客さんの回転率が超高い】

観察の結果、一般的なラーメン屋さんのお客さん1人あたりの滞在時間はだいたい15〜20分くらい。1時間で3回転。1日の営業時間を10時間とすると、なんと30回転であるよ(その逆はフレンチ!)。

 

【原価が安い】

ラーメンの原料に高級食材は使わない。基本的に小麦と動物や魚のアラ(スープ用)なので、原価が安い(フレンチと比べてみるとどうよ)。

 

【バイトでも調理できる】

大学生のバイトでも一通り調理できるということは、人件費も抑えられるということ(フレンチには熟練のシェフが必須…!)。

 

人件費安い、原価安い、お客さんいっぱい入る、ロス出ない。

なるほど。確かにラーメン屋稼業はメリットしかない

 

 

レッドオーシャンで生き延びるには「逆張り戦法」で!

 

街を見渡せばラーメン屋さんがいっっっぱいあるのも納得。ちっちゃいお店なら初期投資も抑えられるし、こいつはいいビジネスですなあ。

 

…となれば、

当然起こる過当競争。

誰しも思う「ラーメン屋、起こそう」。

たちまち増える似たよな店舗。

あっという間に絶滅候補。

(↑韻踏んでみた↑)

 

まあ何ですな、ビジネスワードで言う「モデルがナイスすぎて速攻レッドオーシャン化現象」が起こってしまうわけだ。

※レッドオーシャン:競争の激しいマーケットを「血の海」に例える

店の前に行列の絶えないごく一部の人気店以外は、ジリ貧の消耗戦になってしまう。これが「先週まであった豚骨ラーメン屋が、いつの間にか別の煮干しラーメン屋に変わっていた」現象の理由。

 

そんな過酷なラーメン界で第一線を走り続ける斉藤さんのお店。勝算はどこかというと、下記の通り(というかお店をデザインするにあたって色々一緒に議論した)。

 

特化したコンセプトを持つ =味噌ラーメン専門店
あえて滞在時間を長くする =開放的でゆったりした空間をデザイン
チープなラーメンのイメージを覆す =高い原価の材料(主に味噌)を使う
フレンドリーでやる気に溢れる接客 =相場より高い人件費

 

これ全て「逆張り戦法」なり。

 

レッドオーシャンを生き抜くためには「あえて効率の良さを捨てる」「あえて手間とお金をかける」というリスクに賭ける必要がある。

 

そしてできあがったのが、天高4m超でクラフトビールが楽しめるバーカウンターが併設され、リラックスしたBGMの流れる「チルアウト感ハンパない」ラーメン屋なのであった(普通のラーメン屋は、滞在時間を短くするために圧迫感のある空間、ビートの速いJ-POPをBGMにするのが普通)。

 

 

さてその掟破りの空間で供されるのは、全国から取り寄せた30種以上のこだわり味噌を独自にブレンドしたユニークすぎるレシピ(もちろん全部味噌ラーメン)。さらに斉藤さんのビール好きが高じて、地元の地ビール屋さんとタッグを組んで味噌ラーメンにベストマッチするオリジナルビールを開発するなど「いくらなんでもそれはやりすぎではないのか」と心配になるチャレンジを連打し、関西のラーメンファンを熱狂させる名物店になった(梅田スカイビルのすぐ近くにあるので外国人観光客のホットスポットにもなっているらしい)。

 

さて。
このプロジェクトのあいだ、ヒラクはラーメン業界について深く深く考え続けたので、「入るべきラーメン屋」が見ただけでなんとなくわかるようになった。最後に「ガッカリしないラーメン屋を外観から見分ける方法」をメモしておきます。ご参考までにどうぞ。

 

・キッチンやゴミ場の生臭い匂いが軒先に漏れていない(食材管理がちゃんとしてる・在庫のロスが出ていない)

・「〜系」「〜日本一」などのPR・売り文句が抑制されている(味に自信がある)

・押しメニューが少ない(コンセプトが絞れている)

・人通りが少ない場所にある(立地に依存していない=常連に支持されている)

 

 

それではごきげんよう。

 

 

登場したお店/みつか坊主 醸(かもし)