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かぼちゃ かぼちゃ

郷土料理研究家・青木ゆり子さんに聞く!全国のかぼちゃ郷土料理

青木ゆり子さん
青木ゆり子さん
青木ゆり子さん
各国・郷土料理研究家。料理ライター&フォトグラファー。2000年に「世界の料理総合情報サイトe-food.jp」を立ち上げ、世界中の郷土料理の魅力を発信している。郷土料理をテーマにしたレシピ開発、レストラン・メニューなどのコンサルタント、食イベントの企画立案も行う。

地域の風土や歴史、文化などの情報がぎゅっと詰まった郷土料理。それぞれの土地で昔から“ふるさとの味”として愛され、大切に受け継がれてきました。今回は、その郷土料理に魅了され、海外は50カ国以上、国内は47都道府県全てに出向き、その土地の郷土料理を食べて魅力を伝える活動をしている青木ゆり子さんに、かぼちゃを使った郷土料理について伺いました!

 

 

「郷土料理とは、誰もが子供の頃から大切にしているソウルフード」

─ まず、青木さんが郷土料理に興味を持たれたきっかけを教えてください。

 

以前から日本や世界の料理に関心を持っていましたが、郷土料理の魅力を改めて感じたのは2012年に公開された「大統領の料理人」という映画を見た時。1980年代のフランスで大統領の専属料理人を務めた女性のお話です。彼女は、正式なフランス料理を学んだことも、一流レストランで修行をした経験もない、郷土料理が得意な普通の女性でした。しかし、家庭的な郷土の味をこよなく愛していたミッテラン大統領に突然専属料理人として抜擢されるんです。一国のリーダーが、明日へのパワーの源として求めた料理が郷土料理だったということにすごく感銘を受けましたね。

 

実は日本でも同じような話を聞いたことがあったんです。以前、新潟県柏崎市の田中角榮記念館の食堂で、新潟県の郷土料理「のっぺい汁」を食べました。さといもや野菜やきのこ、油揚げなどが入っていて、片栗粉で少しとろみをつけたごくごく素朴な田舎汁なのですが、新潟出身の角栄さんが生涯で一番好きな料理だったそうです。日本を代表する首相のひとりだから、さぞかしいろいろな料亭の美味しい料理を食べ歩いていらっしゃるのだろうと思っていたのですが、好んで食べたのは子供の頃に食べたものだったんです。それであれだけのパワーが出ていたんだからすごいですよね。郷土料理に対する想いは国や身分が違っても変わらないんだなと思いました。

 

─ 「郷土料理」の一番の魅力ってひと言でいうと何でしょう?

 

やっぱり“みんなが大切にしているおふくろの味”ということですね。地域によって味や形は全然違いますが、誰もが子供の頃から大切にしているソウルフードであることは万国共通です。外国人と話すときのコミュニケーションツールとしても役立ちますね。例えば話している相手がフランスのマルセイユ出身で「名物料理はブイヤベースよね」っていうと、「そうなの!」という感じで話題が広がり、相手との距離が縮まったりします。

 

─ 今まで食べた郷土料理の中で一番印象的な郷土料理は?

 

たくさんありますが、最近だとイタリアのローマで食べた「ローマ風サルティンボッカ」。牛や豚の肉とベーコンを重ね焼きしてセージの葉をのせた簡単なお肉料理です。セージの、ミントのようなツーンとした不思議な香りが印象的でした。ローマっていまだに古代ローマ時代の遺跡がたくさん残っていて街全体が古代遺跡みたいなんですね。その中で料理も昔から伝わってきたものが今も普通に食べられているということにすごく驚きました。

 

 

サルティンボッカ
牛や豚の肉とベーコンを重ね焼きしてセージの葉をのせたローマ料理。

 

 

 

─ イタリア料理というとトマトを使った色鮮やかなピザやパスタを連想しがちですが、そうじゃない料理もあるんですね。

 

古代ローマにはまだトマトがなかったですからね。トマトは原産地が南米のペルーで、ヨーロッパにやってきたのは15〜17世紀の大航海時代。それ以前のローマ料理にはトマトが一切入っていなくて、白っぽい料理が多かったんです。そもそもイタリアって今でこそひとつの国ですが、昔はそれぞれ小さな国に分かれていました。だから地方色が本当に豊か。それが郷土料理にも現れていておもしろいですね!

 

─ 海外で、日本の郷土料理と似ているものはありますか?

 

全然接点が見つからないのに似ているものは、意外にありますね。たとえば、長野県の郷土料理として有名な「おやき」。実はおやきの歴史ってかなり古くて縄文時代から食べられていたという説があるんですね。当時は小麦粉がなかったので、雑穀を粉にして水で溶いて練って焼き、やがて皮の中に野菜などの具を挟むようになったそうです。

 

こういったタイプの料理は昔から世界中いろいろなところで食べられています。中央アメリカのエルサルバドルの「ププーサ」という料理がまさにそう。とうもろこし粉で皮を作って中に具を入れて焼く。具はチーズ、鶏肉、豆などですが、作り方はおやきとほぼ一緒で、私はひそかに「中米版おやき」と呼んでいます(笑)。

 

おやきは作り方が簡単なので、どこかから伝わったというよりもおそらく同時多発的に、全然関係なくそれぞれの場所で必然的に誰かが思いついて作り始めたんだと思います。

 

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ププーサ
エルサルバドルの郷土料理。とうもろこし粉で作った皮の中にチーズや鶏肉、豆などの具を入れて焼いたもの。

 

 

 

 

 

─ 日本の中で郷土料理が似ている地域ってありますか?

地続きだと似てるように思われがちなんですが、実は間に山がひとつあるだけで全然違ったりするんです。逆に、江戸時代から明治時代にかけて大阪と北海道の間を「北前船」という商船が往復していたのですが、その船が寄港した日本海沿岸の港などには、似ている料理があったりします。港のひとつだった山形県の酒田が大阪や京都の食文化の影響を受けていたりとか。

 

─ 陸ではなく、海から伝わったんですね。

 

日本料理に欠かせない醤油もそうです。醤油は和歌山が発祥地ですが、今は千葉に工場が多い。これは昔和歌山から船で千葉沖に伝わったためです。そうした交流があったので和歌山と千葉には「勝浦」「白浜」など同じ地名が多いんです。おもしろいですよね。

 

日本に初めてかぼちゃが上陸した大分の郷土料理「粉ねり」

青木ゆり子さん

─ それでは、今月の旬の食材「かぼちゃ」を使った郷土料理についてお伺いします。そもそも、日本で最初にかぼちゃが伝わった地域はどこなのでしょうか?

 

大分だといわれています。かぼちゃは、17世紀にポルトガル人がカンボジアから持ってきたといわれていますが、そのときの船が最初に到着したのが大分だったんですね。大分には、かぼちゃと一緒に、なすやにがうりなど季節の野菜を炒めて、小麦粉で少しとろみをつけて煮込んだ「粉ねり」という郷土料理が残っています。

 

─ 日本のかぼちゃってカンボジアから来たんですね。カンボジアにはどんなかぼちゃ料理があるんですか?

 

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かぼちゃをくりぬいて、卵や砂糖などと混ぜた液をかぼちゃの中に戻して作る「ラバウソンクチャー」というお菓子が有名です。かぼちゃプリンみたいで美味しいですよ。ちなみにかぼちゃの原産地はアメリカ大陸。ハロウィンを見てもいろんな形があって種類が豊富です。

でもアメリカのかぼちゃは、日本のほくほくしたかぼちゃと違ってちょっと水っぽいんです。パンプキンパイやスープなどがありますが、そんなに凝った料理はないですね。日本で一般的な栗かぼちゃはそのまま英語で“KABOCHA”っていうんですよ。

 

 

 

武田信玄とともに愛される山梨の「かぼちゃ入りほうとう」

─ 国内でかぼちゃの料理が特に多い地域ってありますか?

 

山梨や長野など山がちの地域でしょうか。昔はお米があまり穫れなかった山間部でよく食べられていたようです。やせた土地でもよく育つかぼちゃは腹持ちがいいのでご飯代わりにしていたんですね。長野の「かぼちゃのおやき」も美味しいですよ。

 

─ では「かぼちゃの郷土料理といえばこれ!」というイチオシ料理を教えてください。

 

やっぱり山梨の「ほうとう」ですね。これからの時期美味しくなりますし、かぼちゃなくしては語れません。私など外部から来た観光客はよく食堂で食べますが、山梨の人にとっては家庭で食べるものなので「わざわざ食堂で食べるの?」と不思議がられたことがあります(笑)。それだけ地域に根付いているんですね。

 

あと地元では「ほうとうは山梨の英雄である武田信玄が陣中食として食べたのが始まり」といわれています。実際はそれ以前からあって、おそらく中国から京を経由して伝えられたという説が有力なのですが、山梨では信玄伝説と一緒にほうとうが受け継がれているんです。山梨県民の誇りである信玄公のエピソードがあるから、ほうとうにもより愛着が沸くんでしょうね。

 

─ 地元の英雄とともに語り継がれる、まさに郷土料理ですね。青木さん、ありがとうございました!今回のお話に出てきた日本のかぼちゃ料理3品を写真とともにご紹介します。かぼちゃがおいしくなるこれからの季節、ぜひ作ってその土地の味を堪能してください!

 

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① 粉ねり

地域:大分県
作り方:季節の野菜とかぼちゃを一緒に炒めて、砂糖や醤油などで煮込みます。最後に小麦粉を少し入れてとろみをつけて完成! 家庭によっては醤油の代わりに味噌で煮込む場合も。大分麦焼酎のお供にどうぞ!

 

 

 

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② かぼちゃのおやき

地域:長野県
作り方:水で溶いた小麦粉を練って作った皮に、つぶしたかぼちゃを挟んで焼けば出来上がり! おやきの具材は色々ありますが、かぼちゃの餡がほんのり甘いので、小腹がすいたときのおやつとしておすすめです。

 

 

 

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③ かぼちゃ入りほうとう

地域:山梨県
作り方:水で溶いた小麦粉を練ってほどよい大きさに切った麺と野菜を煮込んで、味噌で味をつけます。体の芯まで温まるのでこれからの季節にぴったり。ちなみに武田信玄は麺を刀で切っていたので「宝刀(ほうとう)」と名付けられたという説も!

 

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料理制作協力/Uchila