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有坂塁さん×土谷みおさん|【第2回】移動映画館にお菓子! 今、新しい形で広がる映画の魅力

  • 有坂塁
    全国を旅する映画館「キノ・イグルー」代表。2003年、中学校の同級生である渡辺順也氏とともに設立し、映画館やカフェ、本屋、雑貨屋、学校など様々な空間で世界各国の映画を上映。音楽やフードトラックを取り入れるなど、映画を軸にした空間を提供している。代々木上原のギャラリーでは、1対1の個人面談「あなたのために映画をえらびます。」を毎月開催中。
  • 土谷みお
    1984年、東京都生まれ。グラフィックデザイナーを経て、2012年、菓子ブランド「cineca」を立ち上げる。映画をきっかけにして制作する“物語性のある菓子”が人気。代表作に猫のごはん・通称「カリカリ」を模した「kalikali -ネコ気分なクッキー-」や、食べられる花を封じた砂糖菓子「herbarium-甘い標本-」など。
    雑誌 PERK「cinecaのおいしい映画」、PINTSCOPE「cinecaのおかしネマ」など連載コラムも好評。

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。

ゲストは前編に続き、移動式映画館「キノ・イグルー」の代表有坂塁さんとお菓子作家の土谷みおさんです。

『映画の新しい楽しみ方』をテーマに、お2人の映画愛について語っていただいた前編に続き、後編では、趣味の映画を仕事にしたきっかけやお2人のおすすめの映画について、たっぷりお話いただきました。

***

——映画が大好きなお2人が、映画を趣味ではなく「仕事」としても関わるようになったのはどうしてなのでしょうか?

塁さんは、今みたいに移動映画館をやる前はレンタルビデオ屋で働いていたんですよね?

うん。学生の頃から映画が面白いなと思ってて、「映画を仕事にしたらどうかな?」って想像したらすごくワクワクして。とりあえずレンタルビデオ屋でバイトをした。

いいですね!実は私も映画館でバイトしていました。

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バイト仲間と自主映画会を開いたのが始まり

(有坂塁さん)

それでバイト仲間と自主映画を作っている他のメンバーで団体を作って、彼らが作った作品と外から見つけてきた面白い映画を集めていろんな場所で上映会をやってたの。

どんな作品を上映してたんですか?

『天然コケッコー』(2007年)の山下監督がまだ学生だった頃の作品とか! それをたまたま見つけて感動して。

天然コケッコー…美しい自然を共に映した日本の青春映画

それが「キノ・イグルー」始まりだったんですね!

そう! 方向性の違いでその団体を離れてしまったんだけど、同じようなことをしたくて、中学時代の同級生の渡辺順也と「キノ・イグルー」を始めたんだ。

「キノ・イグルー」って2人でされているんですもんね。

昔のパリで流行っていた「シネクラブ」っていう自主上映会みたいな感じのことをやってみたい! と言っていたら、友達が「うちでやればいいじゃん」って誘ってくれたりして、どんどん声をかけてくれる人が増えたんだ。

そうやって広がって行ったんですね!

それでバイトをしている暇がなくなって、フリーになって独立したという。cinecaちゃんが菓子作家として始めたきっかけは?

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大好きな「映画」と「お菓子」を結びつけたい

(土谷みおさん)

私、お菓子がめちゃくちゃ好きで、毎日食べるんですよ。中学生のときにお菓子を作る部活に入っていたんですけど、すごくお菓子を作るのが得意で。

「天才かも」みたいな?

いや、天才とまでは思わないけど「私、他の人よりお菓子作るのが上手いかも」とは思ってて、部活をきっかけに高校生や大学生のときは時間があればお菓子を作って身近な人に贈るのを趣味みたいにしていたんです。でも社会人になってデザイン事務所に就職してからめちゃくちゃ忙しくて、毎日すっぴんでボロボロの状態で会社に行ってました。

大変だったんだね。

心が疲弊していく中でお菓子に救いを求めるようになってました。ご飯を食べに行く時間がない時はお菓子を食べてたんです。そうしていくうちに「今こういうお菓子が流行っている」とかに気付いて、空いている時間にお菓子のことを調べ始めて……。

お菓子への興味がどんどん湧いてきたんだね。

頭の中がデザインよりもお菓子に傾き始めていて。恋愛で感じる「今私には彼氏がいるけど、でもあの人の方が好きかも」みたいな感覚になっちゃって。お菓子を手段として何か表現したいと思うようになったんです。

それですぐに事務所を辞めたの?自分の中で結構な決断だったんじゃない?

そうですね。デザイン事務所で学ぶものもすごく多いし、それまでに培ってきたスキルもあるから勿体無いかもという気持ちはありました。でもグラフィックデザインという手段に違和感を持ち始めてからは、お菓子の世界への想いが強く膨れるばかりで…思い切って辞めてお菓子の学校に通いました。

行動早い! 今は映画をモチーフにしたお菓子をたくさん作ってるじゃない?そこからどうやって映画とお菓子が結びついたの?

学校に通っているといわゆる「お菓子の世界のルール」が見えてくるんですけど、パティシエの世界ってすごく独特で、決められたやり方でみんな作るんですね。「こうやれば飴細工のコンクールで優勝できる」とか。

知らなかった。cinecaちゃんはそういうルールが嫌だったの?

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そのルールがある世界と、私の世界との違いを感じました。だから、自分だけの何かを見つけなきゃと思うようになって。当時はお菓子の学校しか通っていなかったから時間に余裕があって、1日4本くらい映画を観ていたんです。

1日4本だと8時間くらいあるよね(笑)。

狂っていますよね(笑)。映画を観ながらも「私だけの何かを見つけなきゃ」って考えていたんですけど、そもそも「私、映画の観すぎじゃない?」と思って。

でも「じゃあ、映画を観るのをやめよう」という選択にはならなかったんだね。

逆に、「これは映画で何かやらなきゃいけない」って。「映画も好きだしお菓子も好きだからちょうどいいや」みたいな感じで、映画からお菓子を作ろうって決めたんです。

映画の時間が無駄な時間じゃないって肯定したかったんだね。そうやって「cineca」っていうブランドが生まれたんだ!

―意外な経験を重ねて、映画をお仕事にされているお2人ですが、今のお仕事をする上で大切にしていることはありますか?

旅する映画館「キノ・イグルー」の活動は場所も作品も様々ですよね。上映される映画はどうやって決めてるんですか?

僕が選んで確認をしてもらうこともあれば、「おまかせで」と言われる場合もある。でも「この映画を上映したい」と先方が言う場合は、僕らがやらなくてもいいかなと思っています。

塁さんの移動式映画館は、ただ映画を上映するためのものじゃないですもんね。

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映画を含めた「空間」を楽しんでもらいたい

(有坂塁さん)

「オーダーメイドの映画イベント」と考えてもらうとわかりやすいかな。「ここでどういう時間を作りましょうか?」という感じ。単に映画を流すだけじゃなくて、会場の音楽とかビジュアルデザインにもこだわります。「もっと広がりのあることができますよ」ということ提案して、映画のある「世界」を作っていく感じ。

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恵比寿ガーデンプレイスセンター広場で上映される「ピクニックシネマ」。都会の夜景を楽しめながら、開放的な空間で映画を楽しめる。時には野外の情景と映画の内容がリンクすることも。

映画を軸にした「コミュニケーション」を大事にしてるんですね。映画を選ぶときは、何か大切にしていることはあるんですか?

「理屈っぽくならない」ようには気をつけてる。例えば百貨店のキャンペーンに合わせた映画とか、確かにキャンペーン全体のまとまりは出るかもしれないけど、やっぱりお客さんが「ここでその映画が観れて楽しいか」が一番大事じゃない?

そうですね。その空間含めて楽しみたいですよね。

テーマに合っていても、伸びやかさがなくなるのは避けたいと思ってる。cinecaちゃんは「お菓子で表現したくなる作品」のポイントってあるの?

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ストーリーの余白をすくい取ってお菓子に

(土谷みおさん)

美術がつくり込まれて起承転結がはっきりした映画よりも、スクリーンに余白があったり、ストーリーに奥行きがある映画の方がつくりやすいです。その隙間をすくい取るようなイメージで。

感情を「すくい取る」ような感じなのかな?

具体的には、セリフが少ない作品が好きです。映画をお菓子にするときに、一回言葉に置き換える作業をします。それは映画全体の解釈とイコールの作業でもあるのですが、映画の中の少ないセリフの行間を読んでいくことも私にとっては重要なポイントなんです。

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「kalikali」(ネコ気分なクッキー):映画「メルシィ!人生」から着想を得たお菓子。冴えない主人公の男は、一匹の猫がきっかけで出会いが生まれた。その猫は映画の中でミルクを飲む子猫だったが、今はもう大きくなってカリカリを食べているだろなと想像したところから生まれた作品だそう。ネコの気分で「カリカリ」食感を楽しめるキャットフードのようなクッキー。

なるほど、面白いね! キャッチーなワードでもちょっと表現を変えただけで意味も変わるよね。どういう風に表現に落とし込むかって部分も含めて、見る側も余白があって面白いなあ。

——普段から映画に関わっているお2人に、アマノ食堂読者の方におすすめしたい作品をお聞きしたいです!まずはアマノ食堂に関連して「食」にまつわるおすすめ映画を教えていただけますか?

■有坂さんおすすめ! 1秒も無駄にしないエンターテイメント作品『CHEF』

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2014年のアメリカコメディ映画。キューバサンドやペペロンチーノのパスタなど、美味しそうなごはんがたくさん出てくるロードムービー。

多分、キノ・イグルーで最も上映回数の多い映画です。野外で映画をやることがここ数年増えてきているんですが、外で映画を観るときは映像自体に開放感があるものがぴったりなんです。

これは楽しい映画ですよね! この映画を辿るドキュメント番組があるのですが、それがすごい面白かった。映画にも登場するイタリアンパセリのペペロンチーノがあまりにも美味しそうで、自分でも作っちゃいました。

すごいね! 普段、映画をあまり見ない人が観ても楽しいし、観たことがある人が観てもすごくよくできていると感じる。音楽も良い、エンドロールの最後まで面白い。奇跡的な1本だなと思っています。

■土谷さんおすすめ! ユーモアたっぷり! 「食」メインに扱った最初の作品『タンポポ』

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1985年の日本映画。超不味いと言われていたラーメン店を立て直す、明るく元気なコメディ映画。食べ物が出てくるシーンは60シーン、出てくる食べ物は100種類超え!

ふらっと街にやってきたトラック野郎が女一人で切り盛りするさびれたラーメン屋を街一番のラーメン屋にして去っていく。という最高にかっこいい話です。ストーリーの合間に男と女の戯れシーンみたいなのがちょいちょい入ってくるんですけど、それがいちいち食べ物で遊んでいて面白い。「スパゲティの食べ方レッスン」とかもあったり、食で人の様々な欲を表現した秀逸な作品です。

明るい気持ちになれる作品だよね!

そうそう! これほど全面的に食をメインにした作品って、当時はなかったんじゃないかな。敬意を払って選びました。

——これまで観たたくさんの映画の中で、人生の中で一番心に残っている作品を教えてください!

■有坂さんおすすめ! キノ・イグルーの名付け親・カウリスマキ監督の代表作品『浮き雲』

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1955年の日本映画。フィンランドのアキ・カウリスマキ監督が手掛けた“負け犬三部作”の第一作目。不況のあおりをうけ、同時に失業した夫婦が困難に負けずに立ち向かっていくヒューマン・ドラマ

人生において僕自身がすごく影響を受けている映画です。初めて観に行ったとき、前の回が終わるのをロビーで待っていたら、みんなすごくいい顔をしていて映画館から出てきて……。それくらい余韻に浸れる映画です。そして実は「キノ・イグルー」の名付け親は、カウリスマキ監督なんですよ。

えーそうなんですか!

移動映画館を始めたとき、「本当に好きな人に名前を付けてもらいたい」と思って、何の接点もないのに本気の手紙を書いて出したところ、まさかの返信あり!

すごい行動力ですね。

カウリスマキ監督は、今やカンヌで賞を獲るような世界的な監督ですが、映画を観るのがまず好きで、若い頃は僕と同じようにシネクラブという自主上映会を主催していた人なんです。そのときのシネクラブの名前が「キノ・イグルー」で。自分がすごく大事にしている名前なんだけど、よかったらこれでどうですかという返信をいただきました。

■土谷さんおすすめ! あり得ない展開が面白い! 奇想天外映画『逆噴射家族』

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1984年の日本映画。祖父の同居とシロアリをきっかけに幸せな家族が一転、家族戦争が勃発。ブラックユーモア満載のホームコメディ

傑作というか、とにかくすごいです。「ついにマイホームを手に入れた!」って新しい家に引っ越して、幸せそうに暮らしていた家族が突然家を壊し始めるんです。

この作品は衝撃的だよね…。

それとともに家族もだんだんぶっ壊れていき、最後は一家でホームレスになるんですけど、とにかくおかしくてぶっ飛んでて、普通じゃあり得ない感じは映画ならでは。最高の映画です。

—— 有坂さん、土谷さん、素敵なお話をありがとうございました!対談後は、アマノフーズの「THEうまみシリーズでほっと一息。

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有坂さんは「マッシュルームスープ」、土谷さんは「コーンスープ」をチョイスされました。

マッシュルームの香りがいいね!ごろっと入ってるのも食べ応えがあっていいなぁ。

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“コーン感”をしっかり感じられて食べ応えがありますね!

* * *

普段から仲の良いお2人。スープを飲みながら、まだまだお話は尽きません。最後にお2人にとっての映画とは?どんな存在かを聞いてみました。

僕にとって映画は、「恩師」のようなもの。どんな映画を観ても自分の内面にある良さを映画が引き出してくれる。人間には顕在意識と潜在意識があるけれど、99%の無意識にもっといろんな自分がいる。その引き出しを開けてくれるのが映画かなと思っています。

私にとっての映画は「窓」かな。私はあまり家を出ないし、旅に出たい願望とかもない。なんでだろうと思ったら、多分映画をたくさん観ているからだと気付いたんです。色々な世界や家族を覗かせてもらえる、秘密の窓のような存在です。

本日は楽しい対談をありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。

 

 

撮影/山田健司
取材・執筆/大西マリコ

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